89、交差する思いと剣 (2)
「ん~、良く寝た。」
最近は魔王軍の侵攻も無いせいか、結構ゆっくりとしている事が多い。
朝の支度を済ませ広間に降りるとジンが先に朝食を済ませてお茶を飲んでいた。
「よっ、今日はゆっくりしているな。」
「まぁね。最近は魔王軍もおとなしいし、今は私の出来る事はないよ。」
「そういうものなのか?」
「うん。」
マジックリングの改良もジュリアとの戦いもすぐには出来ない。
・・・あ、そうだ。
「今日はお墓参りに行こうかな。」
私の言葉にジンが目を見開き、私の前まで来た。
「えっ!?どうしたのジン!??」
「そういえば、墓参り行っていないだろう。」
「あ・・・。」
そういえば、行ってなかったっけ・・・
王都の事件の後は街に戻ったり魔法作成を手伝ったりしていたから、ジンにはきちんと紹介していなかったね。
「もし良かったら、一緒に行ってもいいか。」
「ジンは仕事とかないの?」
「あぁ、やる事は全部終わっているからな。俺も暇なんだよ。」
「うん・・・。」
東地区・母の墓
きちんと整理されたお墓に穏やかな風が吹き抜ける。
お墓に行く前に花屋で花束を購入した。
「ここだよ。」
「そうか。初めまして、俺は白の勇者のジンです。」
ジンはしゃがんで花束を墓の前に置いた。
「ジン、そんなに固くならなくて大丈夫だよ。」
「ば、バカ・・・少しは格好くらいつけさせろよ。」
「ふふっ、そっか。お母さん、ゲオルグさんに会ったよ。そして、ジュリアの事を任された・・・お母さんほどじゃないけど、私は私なりに向き合って行こうと思うんだ。」
私はジンの隣にしゃがんで手を合わせて母に報告する。
「ん?・・・ゲオルグ?ジュリアは確か魔王四天王の1人だったよな?」
「ジンにはきちんと話していなかったよね。実はこんな事があって・・・」
首を傾げるジンに私は可能な限り説明とした。
すると、ジンは私に尋ねてきた。
「ジェシカ、お前は戦えるのか?こういった理由があるならお前には・・・。」
お前にはジュリアと戦えない。
・・・ジンがそう言いたいのは分かるんだけど、肝心な部分が抜けている。
「決着をつけないとダメなんだよ。」
「それはお前が青の勇者だからか?」
ジンの言葉に私は首を横に振った。
「確かにそれもあるけど、彼女の悲劇は彼女だけに留まらなかった・・・」
「どういう事だ?」
「その当時の王国のやり方は問題があった。でも、彼女が魔王軍にくだったのは止められない思いからだった。そして、魔王軍として無関係な人まで手をかける事になった・・・もう彼女の悲劇だけに終わっていないんだよ。だから、私が決着をつけるんだ。」
彼女が魔王軍として手をかけた人はいるから、全てにおいて彼女を悲劇のヒロインとするわけにはいかないし
彼女自身、そんな事は望まないだろう。
「お前なりに考えているんだな。」
「まぁね。彼女にも落とし所は必要なんだよ。」
墓を見つめる私に、ジンは話かける。
「なぁ、魔王との戦いが終わったら何だが・・・」
「そういう話は終わってからじゃないと、死亡フラグだよ。」
「ん?・・・この世界でもそういう約束事みたいなものあるのか?」
私はその言葉に何も考えずに答えていた。
「いいや、前世の記憶だね。」
「前世?」
「そうだよ。私は異世界転生していて、ユキは私のお目付け役なんだよ。」
「は?」
ジンの間の抜けた声が墓場に響く
あれ?何か聞いてないって反応だ・・・
私は今までを振り返る・・・
確か私が異世界転生したという話はレイとアキラにした覚えはある。
そして、ルークには確認していないけどお互いに異世界転生している事はなんとなく分かっていた。
「あれ?ジンは知らなかったっけ??アキラに話していたんだけど・・・」
「ジェシカ、アキラやレイが俺にそういうデリケートな話題をホイホイと喋ると思うか?」
あらためて考えると、アキラもレイもそんな事はしないね。
「うん、思わないね。」
「はあぁぁ・・・。」
ジンのため息が聞こえる・・・
「その、ごめんなさい。」
「まあ・・・その、辛くないか?」
異世界転生すると大体は聞かれる話題なんだけど、正直に話すのなら
「それは辛いよ。大好きだった両親と離れたわけだし・・・でも、異世界転生しなかったらユキはもちろん・・・ジン達にも出会えなかったのだから。否定なんて出来ないよ。」
「・・・そうだな。少し無神経だった。」
ジンはそっと私を抱き寄せる。
「え、ジン?」
「面と向かって言うのが恥ずかしいから、そのままで聞いてほしい。魔王の件が片付いたら・・・俺は元いた世界に戻ろうと思っている。」
そうだよね。ジンにはちゃんと戻れる世界がある。
だから、私が出来る事は決まっている。
「そうなんだ、寂しくなるね。ようし、ジンが安心して帰れる様に私も頑張らなくちゃ!」
気合いを入れる素振りを見せて、予想以上にショックがあった事を隠した。
「ジェシカ、あのな・・・」
「いや、良いんだよ。待っている人がいるなら帰ってあげてほしいから。」
「ジェシカ・・・」
私達は特に話す事も無く、帰路へつく。
家に帰ると、兵士が家の前に立っていた。
「ジン様こちらにいましたかっ!魔王領にある魔王城にて魔王軍が集結しているとの報告がありました!」
「なんだって!?」
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
ジンと母のお墓参りに行くジェシカ。
そこで自分が異世界転生している事を伝えたり、ジンはこの戦いが終われば自分の世界に戻る話を聞きます。
更に、ショックの隠しきれないジェシカに追い打ちをかける様に魔王軍が動き出します。
※予約投稿の操作ミスでこの時間の投稿になりました。大変申し訳ありません。