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異世界でも恋愛は出来ますか?  作者: 香坂 悟
月の章
188/309

86、曰くつきの鍛冶職人の一族

鍛冶ギルドで会議室が数部屋あり、一般解放されているのには理由がある。

それは職人と依頼人との話が出来る様にする事で、装備に対しての細かい注文や職人との信頼関係を築くという鍛冶ギルドの方針にある。


会議室の前に使用中の掛札をかけて置き、私とユーゴは会議室に入った。


「まぁ、座ってくれ。」

「うん。」


椅子に腰かけて、反対側にユーゴが座る。


「その、レイの事について・・・怒っているよな。」


正直な所、凄く怒りたい気持ちではあるんだけど、ユーゴは何か理由でもあるんじゃないだろうかと思っていたのでまずは・・・


「うーん、理由を聞いてから考える。」

「すまない。だから、譲ちゃんには理由についてきちんと話しておこうと思っている。俺の家は元々鍛冶を生業にしている一族でな。」


・・・ん?その話には疑問がある。

そもそも鍛冶を生業にしているなら、何でユーゴは鍛冶ギルドにいるのだろうか?

鍛冶ギルドは自分の工房を持たない人達の鍛冶職人育成と技術向上の場所であり、実家に工房があるのなら特にギルドへ加入する必要はない。


「まぁ、つっこみたい理由も分かるがそこも説明させてくれ。鍛冶屋としては一世を風靡していた頃もあったんだ、だが・・・ある事をきっかけに一族は武器をはじめ、防具や包丁や鍋などの生活道具すら打たなくなったんだ・・・先祖が打ったとある剣のせいでな。」

「とある剣?」

「その剣はある王国の剣士の為に作られた剣だ。その剣士は当時の王国でも最強と呼ばれるほどに強い剣士だったが、魔法が得意ではなかった。そんな剣士の為に先祖が剣に特化させるための剣を打った。装備すると装備者の魔力を使い、魔法に対しての自動反撃する剣。」


・・・あれ?・・・私、その剣の事知っている気がするんだけど・・・


「ん?どうした、譲ちゃん。」

「いや、その剣の話なんだけど・・・私、知っていると思うんだよね。」

「それはそうだ。現所持者は魔王四天王『鮮紅』のジュリア・・・剣の名前は棘剣“のばら”、剣の道を求めるあまりに彼女は“のばら”を持って王国を裏切った。」

「!?」


ユーゴから語られるジュリアの話。

まさかジュリアが元王国の剣士だったとは思わなかったけど、彼女は本当に剣の道を求める為だけで王国を裏切る事になったのだろうか?


「元々王国で『閃光』の二つ名を持つ彼女は魔王軍で成り上がり、敵対するものを切り裂き返り血で赤くなる様子から『鮮紅』と恐れられる様になり・・・“のばら”を打った先祖の工房は曰く付きの一族として鍛冶の世界から消える事となった。」


だけど・・・


「そんなのおかしいよ!だって、武器は使う人次第なんだからっ!」


思わず声をあげる私にユーゴは落ち着いた表情を見せる。


「やはり譲ちゃんは譲ちゃんだな。あぁ、俺も鍛冶職人としての技量を持ちながら燻らせているのは間違っていると感じて、親の反対を押し切って鍛冶ギルドに入った。そして、あらためて鍛冶職人になって武器は使う人次第で変わるんだと思い知らされた。そんな時に魔王と魔王四天王の復活、そして後に青の勇者となる譲ちゃんとの出会いがあった。先祖の無念を晴らせる・・・これは運命だと感じたよ。」

「そうなんですね。」


初めてユーゴに出会った時はかなりきつくあたられた感じはするけど、それは鍛冶職人としての誇りから出る物だったんだ。


「・・・理由は分かったよ。たぶん、魔王の事が落ち着かない限りは仕事以外の事に手が付かなくて趣味とかそういった話も出来ないって事も何となく分かる。でも、レイを思っているならもっとレイを見てほしいな。他の話もしたいというのはレイの興味から来るもので、別に気取らなくてもいいんだよ。」

「そういうものなのか?」

「うん。私もレイとはそれなりに付き合っているけど、動物が好きだったりするし、同じ目線で話すだけでも良いんだよ。」

「・・・。」


ユーゴは少し考えてから


「そうだな。ありがとう譲ちゃん、ちょっと頼みたい事があるんだが・・・」

「どんな事かな?」

「あぁ、次に来た時で良いんだが・・・譲ちゃんがいつも連れているウサギを見せてくれないか。」

「ユキを?うん、大丈夫だよ。」


私の返答をスイッチにユーゴはいつもの雰囲気を取り戻した。


「・・・さてと、仕事はメリハリをつけないとな。譲ちゃんは用事があってここに来たんだろ?」

「はい。制御輪の件で報告があって。」

「お、あの指輪の貸し出しの件だな。」

「それが、やはりまた貸しはダメという話になりまして・・・」


そうかと落ち込むユーゴに私は話を続けた。


「ですが、私が立ちあいで制御輪を見る事については許可貰っているのと、こちらの本を貰いました。」


私はユーゴに歴史資料館で館長から貰った本を手渡した。


「これは?」

「以前に制御輪を学術研究で調査をしていて、この本はその時の調書をまとめたものだそうです。」

「それは助かるよ。譲ちゃんが立ちあってもらえるなら直接見る事も出来るからな、ありがとう譲ちゃん。」

「はい。次はユキを連れてきますね。」


あぁ、その件も頼むよと苦笑いするユーゴ。おそらく、レイの事で何かをしたいのだと思う。

私は装備もレイもよろしくねと少しからかい気味に返すと、数日ぶりの自分の家に帰る事にした。


(続く)

最後まで見ていただきありがとうございます。

レイとユーゴの喧嘩の原因は先祖が打った剣“のばら”だった。

魔王、魔王四天王の復活とジェシカとの出会いという先祖の無念を晴らす千載一遇のチャンスに周りが見えていなかったユーゴはあらためて武器職人として気合を入れ直します。

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