79、ロッソ防衛戦 (4)
相対する私とシグマ。
あの冷気の渦を防いだ魔法の盾は何なのだろうか?
防御魔法にしてはあまりにもストレートというか無駄が多い気がする・・・
「ふむ、さしずめ私の魔法に興味があると言った所か。」
「!!・・・ど、どうしてそれを!」
「いや、ジェシカって割と顔に出ているからねっ!」
シグマの指摘に私が驚き、それをユキがツッコミを入れる。
「良いだろう、ちょっと話をしてやろう。この魔法はモニカ様から聞いた異世界の話から編み出した魔法だ。」
「異世界の話からっ!?」
嘘ではないだろう。
なぜなら、あまりにも非効率に見えるけど性能が違う。
この世界の盾も腕に持つ物だけど、明らかに宙に浮いていて大きさも手で持つには大き過ぎるのだ。
「モニカ様は話し好きでな、その中でも興味を持ったものがどんな攻撃でも防ぐ異世界の魔王の盾だ。その盾は攻撃はもちろん、魔法等も防ぎ・・・装備さえしておけば勝手に所有者を守るそうだ。」
「な、何ですか・・・そのチート仕様は!!」
「モニカ様の話ではその盾にはデメリットもあるらしいが、魔法にするならそういう要らない情報は無い方が良いと言って教えては貰えなかった。」
ここまでの話で分かった事がある。あれは魔法で全自動で防ぐ能力は無いけど、盾としての効果は十分にある。
それにしても、異世界の魔王の盾か・・・興味あるなぁ。
「そろそろいいだろう。始めるとするか・・・。ウインドグラブ。」
シグマの両手に風の魔力が集まり、黒い手袋が形成される。
そして、私の懐まで間合いを詰めに来る!
「(ジェシカ、奴を近づけさせるな!!)」
「大丈夫、加速強化バックステップ!」
グラースが危険を察知したので、私は加速強化したバックステップで距離を取る。
「ほう、アレを躱すか中々やるではないか。」
ユキの前情報からして、接近戦は控えるべきか・・・しかし、離れて攻撃をしても・・・
「ブラストレイ!」
風属性魔力の光線をシグマに向けるが
「魔力を圧縮させて貫通性能を上げるか、悪くはない・・・だが、それでは倒せないな。イージス!」
先程の魔法盾を私の魔法攻撃は霧散されてしまう。
遠距離、近距離共に隙が無い・・・何か良い手はないだろうか。
「ジェシカ、勇者武器を使うんだ!」
「うん。」
後ろから聞こえるユキの声に、私は武器を勇者武器に持ち替えた。
魔法の盾と魔法を切る剣・・・最強の盾と最強の矛じゃないけど、まるで・・・
「矛盾だな。」
「!!」
私が言おうとした事を先んじてシグマが言い放つ。
「悪くはない手だが、かかってくるか?」
シグマはユキ、かつてのラピスと戦っているという事であれば対策自体は出来ているはず。
悪くない手・・・これはブラフっぽい。
「どうした?私を早くしないと、ロッソ陥落も現実になるぞ?」
「それは困ります。加速強化!」
「突っ込むだけではないか、イージス!」
もちろん、私はそのまま突っ込むつもりはない。
魔法の大楯がシグマに展開し、そこに・・・
「そこだっ!」
死角が生まれる!
盾に接触する前に右脚に力を込めて踏ん張りをきかせてから、シグマの右に回り込む。
そこに、勇者武器で一突き入れる。
「ぐっ!」
浅いっ!
シグマにダメージを与える事は出来たが、右腕をかすめた程度だった。
「油断したか・・・だが、この程度なら問題はない。」
「もっと速さがあれば・・・」
懐に入りこめたはず・・・そこまで踏み込むのに多少躊躇してしまった。
「さて、大楯の展開は考えなくてはいけないな。」
「あの手は二度と上手くいかないだろうなぁ・・・。」
もしやるとしても、2回・・・いや、3回の方向転換は必要。
「・・・もし、先程の手を考えているとしたら無駄だ。」
「!!」
私の思っている事をまるで見透かしている様にシグマは言い放つ。
「あの戦法には大きな欠点が2つある。」
「欠点!?」
「1つ目は君の強さは加速から繰り出される火力だ。だから、途中で速度を殺してしまっては奇襲が上手くいっても君の火力では致命傷にならない。」
「!!」
盾に気を取られるあまり、私は自分の長所を見落としていた。
「2つ目だが、私の見積もりではあと2回が限度だ。」
「何の事ですか?」
「君の脚だ。」
「!!」
驚く私にシグマは話を続けた。
「加速した体に急ブレーキをかけて別方向に加速させるには負担が掛かり過ぎる。無理にその戦法を取れば君の脚は使いものにならなくなる。」
やはり誤魔化しはきかない・・・さっきの攻撃で若干怪しい所があっただけなのに、シグマはそれすら見抜いていた。
「まさかそこまで・・・」
「それはそうだろう。君の情報は入ってきている。何しろ冒険者の身でありながら、アルカーナで勇者達を勝利に導いたのだからな。」
相手に手の内が知られるとここまで戦いづらいものだとは、私も予想していなかった。
「実際に会うまでは眉唾ものだったが、実際に会ってみると面白い・・・だが、敵として我々に立ちはだかる以上は全力で行かせてもらおう。」
「くっ・・・。」
シグマの表情は余裕そのものだった。
冷静に分析し、確実に私を追い詰める敵にどう立ち向かえばいいのだろうか・・・
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
シグマと激突するジェシカ。
冷静に分析する相手に対して、ジェシカはどう立ち向かうのでしょうか?
設定補足:シグマ②
雪の章、月の章でも魔法盾イージスを展開してジェシカを苦しめるのですが、ジェシカの戦い方が著しく変化しているのとシグマの覚醒状態により戦局がかなり変わってます。