表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

04.一番簡単ではある

 「初日から試験ってついてない…」部屋にかけてあったパンツスタイルの黒の制服に緑色のネクタイをした私は背負っているリュックの紐を握りしめながら、とぼとぼと歩いて学校へ向かっていた。


「実技試験しかないのに講義以外で魔法使えないから運試しみたいなものだよな~ドキドキする」

「寝ないでちゃんと講義聞いておけば良かったな」


同じ制服を着た二人が私を追い越して行った。課題をしたときに見たノートは丁寧に書かれた文字でぎっしりと埋まっていて、ときどきよく分からないうさぎのキャラクターから『ここポイントだよ』なんて吹き出しで書いてあったりもした。ノートから、この勉強が楽しいっていうのが伝わってきた。



 「一人ずつ順番に実技試験を行います。内容は、部分的な時間の逆再生です。枯れた植物や、砕かれた石などいくつか用意してあるので自分に合うものを持って隣の教室に来てくださいね。持参したものでも結構です。それでは3分後に一人目を始めます」


とんがり帽子を被った穏やかな雰囲気を纏ったおばあちゃん先生が教室から出ていった。「今日の試験官コーン先生かよ」「どうしよう私落ちるかも」なんて声がちらほらと聞こえた。とんがりだからコーン先生なのかな。美味しいもんね。うんうん。ってこんなこと考えている場合じゃない。


 何にしよう。私が用意された物を見ながら悩んでいるとほとんどの生徒が自分の鞄から取り出して席についている。


「あれ、サラさん持ってこなかったんですか?先生の用意するものは魔法で無理やり時間を進ませてあるものだから自然に壊れたものより時間戻しにくいのに」


いやいや聞いてない。その魔法のルールはノートを読んで知っていたけれど、そんな注意知らない。


「まあサラさんなら大丈夫か。そろそろ俺の番なので行ってきますね」と言ったレンくんはまたにこっと笑って、私の横を通りすぎた。そんな彼は白くてもこもこなわんちゃんを抱えていた。


「あいつ自信ありすぎだよな。生き物に魔法かけるなんて俺はしたくないね」「飛び級できたからって調子乗ってるんじゃない」


「じゃーん。みんな見て見て。俺の自転車!綺麗にしてきた!」

こそこそと聞こえた言葉を遮るように、試験を終えたロイが注目を集める。

「いや~パンクだけ直すつもりだったのに、そこの傷も消してそこの錆びも落としてみてとか細かすぎるわコーン先生」

「連続で使うの大変だもんね」「あの先生はアドリブが多すぎる」


ロイは昔から変わらない。すぐに雰囲気を変えてあたたかい空気にする人。他人に厳しいことは言えないけれど傷付いた人に寄り添うのが上手で、誰一人こぼれることなく"みんな"として周りを巻き込む。ちゃらんぽらんなようで、すごく繊細。


「サラさん何にするか決めたんですか?」


 試験を終えたレンくんの足元にはあの白くてもこもこなわんちゃん。くるくると回っていて先程よりも元気そうだ。


「まだ悩んでるんだよね…それよりその子、足に怪我でもしてたの?」

「まあそんなところです。うち動物病院なんですけど飼い主さんが魔法での治療希望だったのでこの子の意志も確認してこの方法で治しました。」

「そっか、生き物との意思疏通はいつでもやっていいもんね」

「はい、治癒に繋がる魔法を伸ばして早く沢山の動物を助けたいんです…


「講義も真面目に受けずに試験で恐がって、石ころばかりに魔法かけるなんて俺はしたくないんで」


そう言ったレンくんはまたにこっと笑った。彼はよくふらふらしていて、何となく儚げな感じもするが人一倍自分に厳しく努力を怠らない人。他人にも少し厳しいけれど動物にはうんと優しい。


 さっきの、絶対あの人たちに聞こえるように言ってたなと思いつつ私は隣の教室に入った。


「サラさんは何の時間をどれだけ戻しますか?」

「私は、えっと…今日かけてきた香水をかける前まで戻します」

「匂いを消すということですか?」

「…はい」


時間の逆再生は対象物によって呪文と唱えるときのイメージを少しずつ変えないといけない。そうノートに書いてあった。そしてあのよく分からないうさぎのキャラクターで『一番簡単ではある』とポイント付けてあった呪文だ。

レンくんがあんなことを言った後だけど、魔法を使ったときの記憶が曖昧な私が何かに魔法をかけて失敗したらと考えると、自分にかけたほうが良かった。



「神よ、私の時間を捧げます」


そう唱えた私は杖の先を手首に軽くあてた。



「…先生どうでしょう?」

「確かに匂いしないわね。じゃあ今日の試験はこれで終わり。教室に戻って待ってなさい」


 

…あっさり終わってしまった。緊張していたぶん、これでいいの?というのが正直なところだ。


「結局サラちゃんは何にしたの?」席につくと隣の子が聞いてくる。うーん。この子の名前なんだっけ。

「今日かけてた香水の匂いを消して終わりだったよ」

「え!それ昨日言ってた消臭の魔法じゃん」

ロイが横から入ってきたタイミングで先生が戻ってきた。

「そんなものなら良かったんだけどね。サラさんがしたのは消滅の魔法だよ。必要な陣を書いた感じもしなかったし未完成だったから止めなかったけど、あれ危うく手首ごとなくなってるよ。あーあと少し寿命は短くなってるだろうから帰り道気を付けてね」


え…


教室にいたみんなが静かになった。


「まあとりあえずみんな合格ということで。解散」



「……おまえ俺よりバカなんじゃ」


そのロイの一言を私は否定できなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 腕消し飛ぶのは怖すぎる [一言] 寿命が縮んでも、事故死とかあるしちょこっとならいいかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ