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02.だから要するに

「じゃあ行くね」と急ぎ足で帰って行った母が閉めたドアの外からはセミの鳴き声が聞こえ、暑くて湿った空気が部屋に入ってきた。


どういうこと。部分的な記憶喪失とか…?とりあえず部屋を見渡してみると、机に魔法書と書かれた教科書らしきものがあった。その下には魔法科2年と自分の名前が入ったノートも。いやいやいや魔法とか洋画でしか観たことないから。しかも私が使えるって?


 一旦落ち着こう。落ち着いたらゆっくり思い出そう。短く息を吐くとちょうどスマホからの着信音。画面には『ロイ』の文字。

「お、出た。サラ大丈夫か?退院したって聞いたから不便なことあったらいつでも言えよ~っていう用件なんだけど…聞いてる?」

「あ、うん。久しぶりにロイの声聞いたなと思って驚いてる」

「ん?夏休み初日に一緒に課題消化したの覚えてねえの?」

「…後から掛け直すね。ごめんね。」

おかしい。高校1年のときに転校してそれっきりだったロイと一緒に課題をやった?


 それから、まだある身体の痛みを忘れて私の欠けている部分のヒントになるものを探した。


 とりあえず整理をすると、私はサラという名前の20歳。ここまではいい。いくつかの学科がある専門学校の魔法科に通っている。そしてその2年生。(たしかに専門学生だけどそんな学科知らないし)…これってあれじゃない?弟のカイが最近ハマってるとか言ってたアニメでも急に魔法使いになるっていう展開あったよね?


頭の中を整理したつもりでも次から次へと謎が思い浮かぶ。


「…魔法のことを置いておいても、ロイも意味分かんない」一体いつ再会したんだろう。自分のスマホのカメラフォルダを漁ってみると、入学式と書かれた看板の前でピースをしている私とロイの写真。


全然覚えていないはずなのに、もう一年も前かと頭に浮かぶ。…考えるのはやめてとりあえず今日はゆっくりしよう。そう思って横になった私が目を覚ましたのは14時間後の朝5時だった。



「思い出した」

 

 思い出した。私は14時間ほど眠っている間ずっと夢を見ていた。20年の人生を早送りで詰め込んだ記憶のようなもの。私は夢の中で『サキ』とみんなから呼ばれていた。もちろん魔法の存在もなかったしロイが登場したのも高校1年のときまでだった。そしてパティシエを目指していた私はスイーツの専門学校へ通っていた。2年の夏休みの、なんでもない日。気になっていたパティスリーへ向かっている途中、横断歩道を渡っているとき、私は大きな痛みと共に目をぐっと閉じた。そこで夢が終わったのだった。


 あれだけ寝たのに体は疲労感で更にぐったりしていた。寝ている間に泣いていたようで視界もぐちゃぐちゃだ。けれど私の目の前の夢みたいな現実と、さっき見た現実のような夢を整理しようと、その辺にあったノートを拾い、殴り書きのように頭の中にあることを全て書き出した。


「だから要するに…」独り言をもらしながら最後に一番大きな字でゆっくりと書いた。


 

『私はサキであってサラである』

 

 

 サキとしての記憶も考え方も感情も残っている。そして今のサラとしての記憶もある。外見はサキもサラも全く同じで、環境とか周りの人間関係もあまり変わらないみたいだ。…まあロイのことがあるから人間関係は追々確認するとして。


 私、あのときに死んじゃったのかな?それで…いやでもさ?どうせ転生するならイケメンになりたかったな、なんて呑気なことを考えれるくらいの余裕はできた。その日は一日かけてアルバムや自分のsnsを見て、ゆっくりサラとしての記憶を確認した。


 夜になってもうすっかり疲れきっている頃、ふとテレビをつけてニュースを流した。「アース12と私たちのアース94が~」


…またよく分からない言葉が聞こえたけれど、もういい。明日またゆっくり調べるなり思い出すなり、明日何かすればいい。深呼吸した私は横になって、今度は夢も見ずにぐっすりと眠った。

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