01.違和感はあったんです
「あ、起きた」
目を開けると私を覗き込んで、にこっと目を細めている知らない青年。ぷっくりと浮き出る涙袋と、高いけどツンとはしていない鼻のライン。そして目にかかるほどまで伸びたさらさらな黒髪と、胸元が開いた白シャツから見える白い肌と男性らしいごつごつとした鎖骨。…言い直す。にこっと目を細める美青年。
「…っ、」上手く声が出ない。
「動かない方がいいよ。事故に遭って身体中を痛めてるんだから。とりあえず看護師さん呼んでくるね。」そう言って彼は私の頬をすっと撫でるとドアへと向かった。
(脚長いな…ていうか誰だあのイケメン)
彼が振り向く。
「待っててね、サラ」
…サラ。そう呼ばれて何か違和感があった。
それから彼が病室に来ることは一度もなかった。退院する日くらいは、と思ったけど私は母に連れられて独り暮らしをしているアパートの一室へと戻った。
目が覚めてから感じる違和感。何だろう。なんだろうこれは。自分の名前が呼ばれたときも、母親と呼ばれる人が見舞いに来たときも、この部屋に入ったときも。
「私も仕事があるから帰るけど何かあったら電話ししなさいよ。急用ならカイにでも電話して。あの子バイトもあまりせずに暇してるみたいだから」
…カイ。フリーターしてる弟だ。分からないということは無いし、思い返すように頭を使えば大抵のことは「ああ、あれね」となる。
「まあ、サラなら魔法も使いこなせてるんだから大丈夫よね」
前言撤回。魔法とは。