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わたしのかわいいサーファー

作者: 出砂コキア

ペンギンたちが波間で揺れている。規則正しく一定の間隔を空けて。


ぷかぷか気楽に浮かんでいるように見えるが、あるものは我先に飛び出す瞬間を待ち、あるものは他のペンギンと接触しないように気を遣い、水面下ではしたたかな攻防が繰り広げられている。


わたしは海風に吹かれながら、波間の一匹を目で追う。黒い豆粒みたいに遠く離れているが、なんとなくシルエットで分かるものだ。

その一匹は、攻防戦においてはどうやら下位集団のようだ。なかなか波に乗れず、おどおどしているように見える。


波が来た。大きなうねりが迫ってくる。

ペンギンたちは波に乗るもの、零れ落ちるものとに分かれる。


どっぱぁああぁん。


我先にと波に乗ったものが、波の上で派手に弾け飛ぶ。全身を空中に投げ出し、羽を広げ、また頭から海に落ちていく。


わたしはその瞬間を見るのが好きだ。

あまりに無防備なその姿は、大自然に抗えないという諦めなのか、海を全身で楽しんでやるという気概なのか。とにかく、日常では味わえない感覚であることは間違いない。


思わずそちらに気を取られて彼を見失い、慌てて探す。


あぁ、いたいた。あれだ。


彼はやっぱり波に乗れずに、他のペンギンに紛れてまだぷかぷか浮いている。


そろそろお尻が冷たくなってきた。

海はちょうど夕暮れ時で、初秋の冷たい夜の気配がじわじわと迫ってくる。


彼が海から上がってくるのが見えた。

全身ずぶ濡れで、頭から雫を滴らせ、満足そうに近づいてくる。

結局、一度も波には乗れていないのに。


わたしは、彼の抱えたサーフボードから垂れてくる水を避けながら、嬉しくて尻尾をぶんぶん振りながら、思わず彼に飛びつく。


「こら、お前も濡れるよ」と、彼が笑う。


いいの、少しくらい濡れても。

わたしの自慢のふさふさの毛は、水滴くらい弾くから。


「じゃあ、帰ってメシにするか」


下手くそなサーファーは、わたしをひと撫でして、紫色に染まってきた帰り道を歩き出す。


彼の後ろに長く伸びる影と戯れながら、わたしは密かに思う。


あぁ、波に乗れなくても、いつか、あの豪快な飛沫とともに空中に投げ出される感覚を味わってみたい。


ふさふさの毛が水を吸って重くなり、ぺしゃんこになったわたしを、あなたは笑うだろうか。

そんな私たちを見て、まわりのペンギンたちは驚くだろうか。


悪くない。


わたしは満足して、無邪気に走って彼の横に並ぶ。


わたしのかわいいサーファーさん、次は一緒に、波間に連れて行って。

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