第弐話 僕はただの人間
役逆ミニ紹介!
No.3 イルス
年齢 15歳
性別 男
職業 盗賊
好きな食べ物 魚
嫌いな食べ物 無し
将来の夢 盗賊団を抜けて、剣術大会で優勝する
そういえば、名乗り忘れていたな。
俺の名はアルガァ=ナイト。魔王の頃、人々からは"最後の魔王"と呼ばれていた。
その理由は一つしか無い。俺は跡継ぎがいなかった。ていうか、結婚など興味無かった。
俺のせいで、魔界は今(といっても転生前の話だが)、混乱していた。誰が魔王を受け継ぐのか?それとも魔王というもの自体が消えるのか?そんな疑問が各地で相次いでいる。
で、その俺が死んだわけだから、魔王の時代は終わった。
かと思っていた。
実は転生した直後、偶々新聞を見た(もちろん、母は知らない)。その新聞には、勇者の野郎が新しい魔王になったと書いてあった。
当時の俺は疑ったが、成長し、周りの人々に聞いていくと、「これは真実だ」と認めるようになった。
で、その新聞を見た時、信じられない情報があった。
「魔族の暴走」
元魔族の俺にとってはあり得ない話だった。一応、心当たりがあるのだがな…。
この世界の魔族は優しい。だから人間との交流も普通にあった。
そんな魔族だから、このニュースに驚いたのだ。
まあ、真実かどうかは魔界に行ってみないと分からない。
とりあえず今は、近くの村に向かって歩いて行こう。
そう思っていたんだが…。近くに集団が潜んでいるな…。
しょうがない。返り討ちにしてやるか。
俺はそのまま街道を歩いていき、集団に遭遇することを決めた。
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「おい、小僧!ここを通るなら、荷物置いてけ!」
…盗賊か?それにしちゃ結構、装備が整えられている。剣に盾、槍、斧、槌、短剣。終いには弓まであるぞ。それに鎧だって、殆どの者が着用しているな…。
「何故、荷物を置いていかなければならない?お前達を見ている限り、奪う必要も無いはずだが?」
「そんなの、お前には関係無い!力ずくで奪ってやる!」
盗賊達はいきなり襲ってきた。
…やれやれ。俺を舐めすぎだな。仕方ない、ちょっと意地悪してやるか…。
「<突風>」
俺の無詠唱の魔法が盗賊達を吹き飛ばす。ある奴は木に衝突し、ある奴は上空に飛ばされた。
突風が起こっている中、一人の金髪男が、俺に斬りかかってきた。
「ヤッ!」
俺はバックステップをし、その攻撃を回避した。
…速い。突風の中、ここまで迫るなんて…他の奴らとは明らかに違う。しかもまだ余裕がありそうだ。
男は最初の一撃を避けられてもなお、俺に剣を振るってくる。しかし、俺は避け続けていった。
しばらく経つと、無駄だと分かったのか、男は攻撃をやめた。しかし、彼の額には一粒の汗も見当たらなかった。
「…全部、避けられたか…。僕もまだまだだね…。」
男は悔しがっている。それほど自身の剣に自信があったのだろう。あ、寒かったか?これは失敬。
「おい、イルス!逃げられてんじゃねぇか!お前のスピードはそんなもんかよ!」
ほう、この金髪男はイルスと言うのか。…イルス?何か引っかかる気がするが…。
「残念だけど、これが限界なんだ。」
ん?これが限界?どう見ても限界の速さではなかったのだが?
「フンっ!期待して損したわ!じゃあ、期待を裏切った罰と
して、その男と戦ってろ!その間に俺達は逃げるからな!」
おいおい、それはないだろ。仲間じゃないのか?それとも奴隷なのか?
「…分かったよ。」
男は少し暗い顔をしながらも、男達の指示を聞いた。
お前、引き受けるのか…。一体何を考えているのか…。
「イルス、逃げるんじゃねぇぞ!皆、退散だ!」
お前達が逃げてるのにな…。まあ、いい。
とりあえず、このイルスとやらをどうにかするか。
「君、しばらく僕の相手をして。」
イルスの方から声をかけてきた。
予想外だったが、俺は仕方なく、了承した。
イルスは「ありがとう。」だけを言うと、また俺に斬りかかった。
…さっきのものより速い。やはり、本気では無かったようだ。
俺は回避しようとしたが、この斬りかかる攻撃はフェイントだった。
斬りかかる攻撃からの斬り上げ攻撃。普通の輩なら、もろに受けてしまうだろう。
だが、今回は俺だ。単純なフェイントなら防げる。
「<擬似・光剣>」
俺の右腕が光で包まれる。その光達は徐々に剣の形を作っていく。
俺は斬り上げを、この光剣で防いだ。
「…⁉︎」
防いだ直後、イルスは驚いた。が、すぐに笑みに変わり、
後ろに退避した。剣を一回転し、再び構えると、イルスが質問してきた。
「君、流石だね。名前は?」
「俺はアルだ。」
イルスは「アルと言うんだね。」と言うと、剣を構えた。
「じゃあ、僕も名乗ろうかな?僕はイルス。よろしくね。」
イルスは名乗ると、俺に向かって突進してきた。
そのスピードはさっきの攻撃を更に超えており、下手したら…!
「はっ!!」
イルスは剣先を突き出す。俺の腹を狙っているようだ。
この攻撃も普通の人間なら、腹を貫かれているだろう。
「フンッ‼︎」
俺はイルスと同じ構えをとり、そして剣先を突き出した。
俺とイルスの剣はぶつかり、巨大な衝撃波を放った。
「俺の光剣を見て、驚かないとは…。お前は何者だ?」
ぶつかり合っている間、俺はイルスに聞いた。
イルスの答えは一瞬だった。
「僕は…僕はただの人間だよ。」
ふむ、ただの人間か…。どうもそうには思えん。明らかに格上のこの俺に、逃げるどころか互角に戦えるんだからな。
まあ、いい…それは後で良い話だ。
今はイルスを倒す。それだけだ。
「ハァ‼︎」
俺は思いっきり力を込めた。その瞬間、衝撃波に耐えられず、イルスは大きく吹っ飛んだ。
そのままイルスは地面に叩きつけられ、気絶した。
「俺相手に引かないお前みたいな奴が、ただの人間ではないだろう。」
俺は気絶しているイルスにそう告げ、イルスを木陰に連れて行った。