第零話 プロローグ
魔王と勇者の役割逆転〜邪悪勇者に堕とされた元魔王、勇者になる〜(以下、役逆)ミニ紹介!
No. 1 アルガァ・ナイト
年齢 441歳(没時)
性別 男
職業 魔王
好きな食べ物 魚(特に赤身魚)、トマト以外の野菜
嫌いな食べ物 トマト
二つ名 「最後の魔王」
〜とある世界での魔王城〜
「"元"魔王アルガァ=ナイト、貴様を投獄と処す!」
勇者が聖剣を俺の首に差し向け、そう言い放った。
…負けたのか。俺は勇者に負けたのか…。
当然と言えば当然だ。他世界から来た者によると、殆どの世界ではそうなるらしい。だから、俺がこの勇者に敗れるのも当然なのだ。
「アルガァ=ナイト、貴様はもう終わりだ。対魔王軍よ、魔王を捕らえよ!」
勇者は人間の兵士に、倒れた俺を捕縛するよう命令した。
俺にはそれに抗う力もなく、すぐに捕らわれた。
そんな俺の姿を、側近であり、そして親友でもある、大魔人サガ=エルドラゴが泣きながら見ていた。
「…おい、サガ…。」
「…はい、魔王様…。」
「落ち込むんじゃない…。俺はまた、すぐに戻ってくる。」
「アルガァ…様…。」
俺はサガを慰めた。それを受け、またしてもサガの目から涙が溢れる。
慰めた直後、横の兵士が「歩け!」と言い、背中をドンッと押してきた。
俺はサガに顔を向け、微かに笑いながら監獄に向かって歩いた。
しばらく監獄内を歩き、俺は最奥の牢屋に入れられた。
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それから一年が経つ。
俺の力は次第に弱くなり、全盛期では何発も使えた絶級魔法も放てなくなった。
いや、魔力に関してはただ弱体したわけではない。
あの勇者に吸収されたのだ。
よく勇者は俺の所へ訪問するのだが、いつも、俺の知らない魔道具を装備している。
奴が俺に触れる度に、魔力が減っているのだ。
「よう、アルガァ=ナイト!今日も生きているよな?」
「ああ…サガと約束したからな…‼︎」
また今日も、勇者は現れた。
しかし今日の勇者はいつもと違う。
訪問の時には持ってこないはずの聖剣を、今日は持ってきているのだ。
「…お前、その剣は何だ?」
「ん?これかい?まぁ、その内分かるさ…。」
そう言いつつも、奴は不気味な笑みを浮かべる。
…なるほど、俺を殺すのか…。
今の俺は手足が拘束されている。そのため抵抗も脱出もできない…。殺すには絶好の機会だ。
…終わったか。サガとの約束も守れなさそうだ…。
俺が死を覚悟し、目を閉じた次の瞬間、想定外の出来事が起きた…。
「アルガァ様を殺させない!」
俺が聞いたことのある声が、牢屋の中へ入ろうとした勇者を止めたのだ。
喋り方、声質で誰なのかが分かった。
俺はその誰かを止めるべく、咄嗟に叫ぶ。
「来るな!サガ!お前が死ぬぞ‼︎」
そう、来たのはサガだった。
サガは俺を助けようと、此処に現れたのだ。
勇者はサガに気づくと、そちらの方へ走っていった。
…このままでは、サガが死ぬ。
「サガを助ける…。拘束具よ、俺の邪魔をするな!」
俺はありったけの力を腕に込め、そして拘束具を破壊した。
もちろん、魔力は戻らない。だが、自信を取り戻したおかげで、力が全盛期まではいかないが戻ってきた。
「<メタル・クラッシャー>」
俺は鎧を破壊するための武術を、牢屋の扉と足の拘束具に当てた。
一瞬で双方は破壊され、行動の自由を得た。
「さて、追うか…。」
俺は牢屋を出て、記憶を掘り起こしながら、魔王の間へ向かった。
一年も経つが、姿はあまり変わっていない。少し埃が溜まったぐらいか?
俺の予想だが、サガと勇者は魔王の間にいる。
何せ、あそこが城で一番広いからな。戦うには最も相応しい所だ。
しばらく走っていると、監獄の出口が見えた。どうやら、俺の記憶通りだったようだ。
監獄を出ると、そこは魔王の間。もう目の前だ。
「貴様、魔族に何をするつもりだ!」
サガの声が聞こえる。必死に何かを止めようとしているようだ。
話を聞いているとどうやら、勇者は俺達魔族に何か良くないことをしようとしているらしい。
防ぐ。それが俺ら魔王アルガァ=ナイトと、その側近サガ=エルドラゴの役目だ。
俺は魔王の間に入ると、まず勇者に殴るべく、勇者に向かって走った。
すると、サガと勇者は直ぐに気づいた。サガも勇者へ向かい、勇者は俺らを迎え撃つべく、聖剣を構えた。
「<ダークネス・ラッシュ>‼︎」
「<ワイルド・ボルテッカー>‼︎」
俺のラッシュ攻撃とサガの雷突進攻撃が同時に勇者を襲う。これを受けきった者は過去にいない…。
しかし、勇者は聖剣で俺達の攻撃を防いでみせた。街の一つや二つを破壊するような俺達の大技を防ぎきったのだ。そして、悔しいことに聖剣にヒビが入っていない。
…これが、俺達と勇者の格差なのか?
やはり今の俺達では彼に勝てないようで、俺達が必死になっている中、勇者だけが笑っている。
勇者は俺達の腕を掴むと、魔王城の強固な壁に投げつけた。
俺達は壁に激突し、地に伏した。
「フハハハハ‼︎やはりアルガァ=ナイトは雑魚なのだ!勇者であるこの俺様に逆らうなど、神以外無理に決まっている!」
勇者の高笑いが魔王城の広間に響く。
俺達は勇者の言葉に腹を立てるが、魔力も体力も殆ど無いこの状況では何もすることが出来ない。勇者の言うとおりなのだ。
「さて、貴様達をどうしようかね…?やはり殺すか?」
…マズい。このままでは俺達二人が殺されてしまう。せめて、サガだけでも逃さねば…。
俺は俺と同じように地に伏している親友に話した。
「…サガ、今から回復魔法を俺らに掛ける。掛けたら、ここからお前を逃す。そしたら、お前は勇者の捜索から逃げ続けろ。…絶対に生き延びるんだ。」
「ですが…、それではアルガァ様が…‼︎」
サガが心配になるのも分かる。だが俺は大丈夫だ。
俺には生涯、誰にも話していない絶級魔法がある。
それが<別族転生>というものだ。そう簡単に俺の魂が消えることはない。
「俺なら、問題ない。俺はどうにかして生き延びるから
な…。」
と言いつつも、俺は一度死ぬんだが…。
そう自身にツッコミを入れていたら、俺は咄嗟にあることを思いついた。
「…そうだ。いずれ、また会うときのために合言葉を作ろう
ではないか。次会うのはかなり先かもしれないからな。そうだな、じゃあ…。」
俺の提案した合言葉をサガは聞き取ると、少し笑い、そして頷いた。
…これで、大丈夫だな。あとは実行するだけだ…。
「<ハイ・ヒーリング>」
俺は勇者に気づかれないように回復魔法を掛ける。幸い、勇者は気づかなかった。
「よし、アルガァ=ナイト!まずは貴様からだ!」
勇者は俺を殺すことを決めると、こちらに近づいて来た。
だが、一足遅かった。こちらはもう、サガを逃す準備が出来ているのだ。
俺は立ち上がり、倒れているサガの背に手をつけた。
「じゃあな、我が友よ。また会う日を楽しみにしている。」
俺はサガにそう言い残すと、右腕に残りの魔力の全てを注いだ。
「<他者転移>」
魔法が発動した瞬間、サガの姿が消えた。
消える前、サガの顔を見たのだが、彼は涙を流していた。
で、俺は何処に移したのか知らない。だが、一つだけ言えることがある。
数日間、勇者から逃げることが可能な場所に転移出来たことだ。
魔力を込めた分だけ転移出来る距離は伸びる。
俺の残り魔力の全てを注ぎ込めば、軽く魔王領の端まで飛ばせる。だから、これだけは言えるのだ。
「…貴様!余計なことを⁉︎」
勇者は怒るが、俺は当然のことをしただけだ。
「まあいい。サガは後回しにする予定だったからな。まずは
貴様を殺す!」
…さて、最後に一回、抗うか。
多分俺は死ぬだろう。それでも抗う。サガの逃亡時間を少しでも稼ぐために。
俺は長いこと愛用してきた剣を構え、今の俺では一生勝てないであろう勇者へ斬りかかった。
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サガを転移させてから三十分経った。俺は死亡寸前だ。
三十分の激闘の末、俺は聖剣で心臓を一突きされたのだ。聖剣による傷はそう簡単には治らない。よって俺の敗北が決まったのだった。
「フハハハ…‼︎貴様の負けだ、アルガァ!」
勇者はそう言い、俺に近づいた。
「アルガァ…、いや"最後の魔王"様よ!最期に言い残すことはあるか…?」
そうだな…。どうせ転生するからな…。勇者に言いたいことだけ言って死ぬか。
「魔族は永久不滅だ…。」
「それが、お前の最期の言葉か!最期まで魔王らしいな!それじゃあ、魔王様!次はまともな奴になるんだな!」
勇者は聖剣で俺を斬り殺した。
それにより、事前に掛けておいた魔法が作動した。
俺の魂は消えることなく、次の生物に受け継がれる。
さて、俺は何になるのか…楽しみだな。
しかし、この時の俺は知らなかった。
俺が人間になることを…。
皆さん、こんにちは。新作を書きました。どうぞ、よろしくお願いします。