気づかないふりをしていたのに
息が切れる。心臓がザワザワとうるさくて。呪いの蔦のせいだと思っていた、このざわつき。実は違ったのかもしれない。
何度も蓋をしてきたこの思い。たぶん、もうずいぶん前に気が付いていたのに、気づかないふりをしていた。
お兄様がお兄様じゃないのだとしたら、私は……。だってもうすでに、誰よりも大好きで誰よりも愛しいのに。
だって、この世界に来るより前から、私の一推しはお兄様だったのだから。
「ずるい……」
涙が次から次へとこぼれ出す。ディオ様の呪いを受けたことを告げたあの日も、私の身代わりになってくれようとしたあの日も、いつでも私を優先させてくれる兄。
「こんなの、好きにならないわけがない」
それでも、今までは家族だから、兄妹だからと理由をつけて誤魔化すことができたのに。私はとうとうしゃがみ込んでしまう。胸が苦しい。
「リアナ……」
息を切らせた兄の声がした。
「今は……そっとしておいてくれませんか」
「だめだ。そんなふうに一人で泣くなんて許さない」
兄はもう、抱きしめてこなかった。その代わりに、あの日私が自分の運命を告げた時のように、私の手をそっと握った。
大きくて温かい兄の手。
私が泣いていると、いつでも手を差し伸べてくれる。正面に立って、誰よりも私を庇ってくれる。
(こんなんじゃ、私はますますダメな子になってしまう)
「何があった。リアナがそんなになるなんてよっぽどのことだろ?……俺に話しづらいことなら他の誰かを連れてくるから」
「――っ。――――お兄様がいいです」
それを聞いた兄が、口元をもう片方の手で覆う。
「ダメだな俺は……」
「え……?」
「リアナが泣いているのに、そう言ってもらえて喜んでしまっている」
兄がくれる言葉の一つ一つは、何故か少し重くて。少し悲しくて。そしてとても嬉しい。
だから私は、勇気を振り絞ることにした。
兄妹じゃなくなったときに、私たちの関係がどうなってしまうか怖い。兄が今までのようにそばに居なくなるのが怖い。
それでも、初めて出会った時の兄は、冷たい瞳をしていたのではなく、とても悲しんでいて傷ついていたことに今の私は気が付いてしまったから。
「――――お兄様と初めて会ったのは、薔薇のトンネルを抜けた先でしたね」
「…………っ。リアナは」
「お、お兄様と私は……」
「騙していたみたいになってしまったな。……ごめん。リアナとの関係が変わってしまうのが怖かった俺のわがままだ」
私の手を握る力が強くて痛い。兄は俯いているけれど、私のそばから離れたりしなかった。
私はそのことに心からほっとする。
「本当のお兄様じゃなくても、お兄様のことを私は好きでいていいんですか」
「当たり前だ……リアナは、俺の大事な」
少しの沈黙の後、兄は「大事な妹だから」と言って私の頭を撫でた。
たぶん、兄と違って私の好きはそうじゃない。でも、もうすぐ18歳になってしまうから。この気持ちを伝えてしまったら、ダメだった時きっと兄はもっと傷ついてしまうから。
「好きですお兄様」
「ああ。俺もだリアナ」
全てが終わったらこの気持ちを伝えよう。私はそう、心に決めた。
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