禁書庫の上司と同僚さん2
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「それで、満足しましたか?ミルフェルト様」
「え?なんのことかな」
赤毛の青年は、少し恨めしそうにそのモスグリーンの瞳をアイスブルーの瞳をした幼女へと向けた。この仕事についてから、学生時代の禁書庫にいた幼女が上司ということにも驚いたが……。
「結局のところ、以前無理やりフリードに聞かされた聖女と世界樹の呪いについての情報を俺に集めさせる気なんでしょう?それから新情報の魔王についても」
「……まあ、キミが適任だね。誰よりも世界中の情報に近い存在だろ?極秘資料管理官、実働部隊のトップである同僚くんは」
「……たしかに、一般の人間よりよほど知っているでしょうが」
「それでもボクはキミにお願いするしかできない。そうだな、対価にボクの情報を全てキミにあげよう」
赤毛の青年は、俯いたまま「また、深みにハマらせようとしてますね」と苦笑してつぶやく。しかし、ミルフェルトが次の言葉を発すると、彼の持つ雰囲気が一瞬にして変化した。
「キミの奇病を患う妹を助けてあげるよ?ボクはその方法を知っている」
「――――っ。本当に?」
「まあ、巻き込むことへのお詫び。……でも、キミがもし断ったとしてもなんとかしてあげようくらいのことは思っている。キミのことすごく気に入っているからね?」
何気ない様子で、ミルフェルトは折り畳んだ紙を赤毛の青年へと渡す。
「とりあえず、材料集めて持って来て?ボクはここから出られないけど、集めてくれれば薬は作ってあげるよ」
しかし、紙を開いた赤毛の青年の表情がピシリと音が聞こえそうな様子で固まった。
「竜の血石に世界樹の雫のカケラ……これ、エリクサーのレシピか何かですか?他の材料はいけそうだけど、この二つは集めるの不可能でしょう」
「……どうかな?フリードに相談してみたらいいよ」
「フリードに?それは、公爵家なら竜の血石は持っているかもしれませんが、世界樹の雫なんて伝説上の存在でしょう?」
ミルフェルトが、唇に人差し指を当てて首を傾げる。そして、いいものを見つけたかのように満面の笑みを見せる。
「あ、ちょうどいいね。ほら、行っておいで?」
「えっ」
次の瞬間、赤毛の青年はフリードの目の前にいた。
「うん?なんだミルフェルト様か?」
「――――なんで驚かないんだよ」
美しいブロンドと妹と同じ青い瞳の次期公爵。目の前に急に人が現れたのに驚くこともない。冷たい印象は、しかし次の瞬間何か思い出したのか微笑みで崩れた。
「――――目の前に人が現れるのにはもう慣れた。それで、ミルフェルト様に何を言われた?」
「――竜の血石と世界樹の雫のカケラがあれば、妹の病を治せると」
軽くフリードが瞠目した。赤毛の青年は、不思議そうにその変化を見つめる。
「そうか。ちょうど良かったな?今からリアナが来るから」
「え?そういえば、この図書室、どこの」
「俺の家の図書室だが?」
不法侵入に不敬罪。ディルフィール公爵家のもつ機密の漏洩……。嫌な言葉が次々と浮かんでは消えていく。
「ま、ミルフェルト様がしたことだ。気にしたら負けだぞ?ついでに夕食も食べていくといい」
「いや、庶民に公爵家の晩餐は辛いだろ」
「はは。いつも身分なんて気にしていないような言動のくせに、そんな小さいことを気にするとは意外だな?わかった、俺の部屋に気負わない軽食を用意する。一緒に食べつつ作戦会議をしよう?」
公爵家の晩餐に招かれることは、小さいことなんかじゃない。赤毛の青年は、その言葉を辛うじて飲み込んだ。
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