この世界に魔王はいらない
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「ところで、リアナはどこまで知っているのかな?」
アイスブルーのツインテールを細い指に巻きつけて、少しだけ相手に意地悪だと感じさせる微笑みをミルフェルト様が私に向けた。
「どこまでって……」
「わかっているくせに。トアの行く末のことだよ?」
ミルフェルト様の瞳が、この瞬間だけ私の心を覗き込むような真剣さを帯びる。やはりミルフェルト様が知っている世界では、トア様は魔王に……。
ミルフェルト様の言葉に、軽く首を傾げるトア様と「また聞いてはいけないレベルの機密の香りがする」と呟いて、顔を青ざめさせている同僚さんの姿が目に映った。
「トア様は、魔王にはならないですよ?ディオ様がいますし、私もさせません」
「あの、リアナ様……それって」
トア様が、いつも湛えている無邪気な表情を取り払った。その瞳は、真剣で私が冗談を言っているのではないと察しているようだ。
「僕の、魔力のことですか」
ディオ様が、トア様を大切に思うと同時に、その魔力が暴走しないように監視していることは、私も薄々感じていた。
トア様の魔力は、おそらくミルフェルト様と同系列のものだ。暴走してしまえば、おそらく世界樹の呪いにも悪影響を与えるだろう。
繰り返す乙女ゲームの世界で、フローラを始めとした登場人物が呪いの蔦や王家の呪いと戦うことになる原因の一つ。
「……トアがこの部屋に来ること自体があり得ない。だって、本当ならもう魔力は暴走し始めているから」
「……ゲームでは魔王が現れるのは、三年生の春でした」
「何を言っているのか、わからないんですが」
それでもトア様は、こんなにも穢れない天使のようにここにいる。魔力が暴走してしまう気配も見られない。
それは、ディオ様の力が大きいだろうし、あまり考えたくないけれど兄との修行によるものなのかもしれない。
「リアナはすごいね?ボクは柄にもなく期待してしまっているよ」
「ミルフェルト様……私は、みんなが幸せになる結末が欲しいです」
その様子を見ていたトア様は、覚悟を決めたような表情を私に向けた。まるで、自分の罪を告白することを決めた人のように。
「リアナ様は、僕の魔力が世界に害をなすのだと思わないのですか?」
その質問に対する答えは、私は一つしか持っていない。きっと、ディオ様も同じ答えだろう。
「思わないわ。闇の魔力を持っているとしても、力は使い方によって世界の役に立つでしょう?私の呪いを抑えてくれたように」
「――っ。兄上に聞いても教えてもらえないんです。リアナ様の呪いは」
本当のことを言うかどうか、とても迷った。事実を伝えたとして、もし結果が変わらなければトア様を逆に傷つけてしまうだろう。
それでも、本当のことを伝えることに決める。きっと未来は変わるから。
「公爵家の長男は、王太子の呪いを肩代わりして18歳で死ぬことが決まっているの。これは、ディオ様の呪い」
「じゃあ、リアナ様は……」
トア様のアイスブルーの瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。トア様は本当に優しい心を持っている。
トア様には魔王は似合わない。
「この呪いは、私で終わりにするって決めているの。手伝って欲しいです。トア様?あと、同僚さん」
ボロボロ涙をこぼすトア様は返事ができないようだ。代わりに同僚さんが「完全に巻き込まれた」と諦めの表情でつぶやいた。
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