禁書庫と魔王
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夏休みに入る。何と私は、三年生首席に返り咲いた。ライアス様はあの後、総合優勝を果たしたけれど、学業の一位、それに学年優勝が大きかった。あの一瞬、呪いを抑え込んでくれたトア様には感謝しかない。
そして、学年優勝をしたトア様はもちろん首席残留を果たしている。
兄との修行帰りのトア様にお礼を言ったら「毎日でもいいですけど?」と、どこか嬉しそうに申し出てくれた。
「そんなの確実にトア様の体に負担になるからダメですよ。……でも本当に感謝してます」
「受け取ればいいのに。そういうところが、逆に周りの庇護欲をかき立ててるんでしょうね?」
トア様がため息をつきながらこちらを見た。少しだけ上目遣いに見てくる暗黒騎士(弟)の破壊力がすごい。あくまで趣味の話をすれば、聖騎士になる前の暗黒騎士の方が私は好きだ。
それにしても、ほんの一、二ヶ月の間にトア様はあり得ないほど強くなった。兄の破茶滅茶な修行についていっているのもあるけれど、成長曲線がものすごい急勾配だ。
やっぱり聖騎士の弟は魔王になんてならなければ、完成形は暗黒騎士なのかもしれない。
黒髪に黒い瞳のディオ様、銀の髪にアイスブルーの瞳のトア様がそれぞれ聖騎士と暗黒騎士の格好をしたら……。見たい!
「――――リアナ様、聞いていました?」
「えっ?」
深く入り込みすぎて聴こえていなかった私に、何かトア様は話しかけていたらしい
「はぁ、何を考えていたんだか。あのですね、僕たちミルフェルト様に呼ばれているんですよ」
「ミルフェルト様に!」
「うわ。いきなり元気になりましたね?本当、リアナ様ってわかりやすいですよね」
そうだろうか。ほとんどの時間を公爵家令嬢とか聖女の仮面をかぶって生きていると思うのだけれど?
私は小首を傾げる。まあ、トア様の前では、初めから残念な方の素顔の私しか見せていなかったかもしれない。
「トア様には、お恥ずかしいところばかりお見せしておりますわね?」
「――っ!今更、あなたにそんなふうに取り繕われると、もう完全に違和感しかないです!」
「まあ、トア様?お戯れを」
ちょっと悔しかったので、禁書庫に行くまでの間だけ、公爵令嬢の仮面をかぶって過ごしてみた。その間中、トア様はどこか居心地悪そうな顔をしていたので、やればできるのだけれど、多分もうトア様の前では仮面をかぶらない。
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禁書庫に入ると、なんだかスッキリとしていた。積み上げられていた本は、書架に美しく整頓され、床も何だか艶々と輝いている。
部屋の真ん中にちょこんと座っている、アイスブルーの髪と瞳をしたツインテールの幼女だけはいつもと変わらない。
「こ、これは……ずいぶん変わりましたね?」
「うん。まあ、ちょっと同僚くんのおかげでね」
同僚くん?その名称を、最近どこかで聞いたような気がする。
「散らかりすぎですミルフェルト様。流石に、ずっとここにいたら体に悪いですよ」
「ちゃんと健康体のまま永い時を過ごしているから、その仮説は成り立たないと思うんだボクは」
視線を移した先には、多分一度見ただけでも記憶に強く残る鮮やかな赤毛と、思慮深げに見えるモスグリーンの瞳の同僚さんがいた。
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