兄と騎士と父
「あの、ディオ様?大袈裟ですよ」
何故か抱きついてきたディオ様。その様子から相当心配していたことが感じられる。
「……あれから六時間近く経っている」
「えー。三十分くらいしか、いませんでしたよ?」
チラリとミルフェルト様を見ると、悪戯が成功したかのように笑っている。
「ごめんごめん。中と外は十倍近く時間の流れが違うんだよ」
ごめんごめんじゃなーい。それ、昔話で玉手箱開ける系のやつじゃないですか。一日とか居たら、捜索願い出されちゃうやつじゃないですか。
「そ、そうですか……」
「さ、もう夜も遅い。塔まで送らせて下さい」
サラリとエスコートを申し出てくれるディオ様。やはり、ディオ様は紳士だ。本当に私と三歳しか違わないのだろうか。
「近いうちにまたおいで」
ミルフェルト様から、そんなお言葉をいただいてしまった。私、本音と建前とかわからないんで。ほんとに来ちゃいますよ?
小さく手を振るミルフェルト様に、私も元気よく手を振った。
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禁書庫を出ると、すでに窓の外は真っ暗だった。そこには兄がいて、何故か私に抱きついてきた。
「心配した……」
兄にまで、相当心配をかけてしまったようだ。こんな遅くまで残って待っていてくれるなんて、胸がほんわか温かくなった。
「お兄様、こんな時間まで待っていて下さったのですね」
「ミルフェルト様のところに行っていたんだろ?……お前のことだから、何か失礼なことをして閉じ込められてしまったんじゃないかと」
信頼されていなかった!まあ、引きこもってばかりで信頼してもらうようなこともしてないけれど。
「良くしていただいたし、礼儀正しくご挨拶しましたよ?」
そう言って微笑むが、兄とディオ様が見つめあって何やら首を振っている。二人だけで分かりあうとかやめて欲しい。
いや、もっとそんな絵になる二人を見ていたい。
「まあ、俺と一緒に今日は家に帰ろう?父上も心配して危うく学校まで迎えに来そうになっていたぞ」
あら?ディルフィール公爵家は、家族仲が冷え切っているという設定ではなかったかしら。首をコテンと倒して考えていると、何かを察したのか兄が微笑んだ。
「……お前は昔から父上に溺愛されていたよ。7歳から塔に引きこもってしまったせいで、父上の愛情はなおさら拗れているんだ」
何その新設定?!金髪ドリル頭だった7歳の我儘令嬢だった以前の私すら溺愛対象とは、父の愛が偉大すぎる。
「出来のいいお兄様ばかり愛されているのだと思っていました」
少なくとも悪役令嬢リアナはそう思っていたことがゲームの端々に現れていた。
「……出来のいい、ね」
なんだか兄が、少し遠くを見つめて意味深なことを言い出した。もう、新設定が盛り沢山すぎて兄のフォローまでは出来ませんよ?でも……そんな顔しちゃダメです。
「だって、私の自慢のお兄様です」
「そ、そうか」
(兄がチョロすぎる!)
そんなチョロいと、悪い女に騙されちゃいます。兄が心配です。
「ふふ。兄妹仲がいいね?ちょっと残念だけど、家族水入らずを邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
「ディオ様」
「なに?可愛いリアナ」
可愛いって、そんな簡単に言うんですか?なんて言うか、そんなキャラでしたっけ?
「ありがとうございました。また明日」
「――――っ。また、明日」
ディオ様が少しだけ眉を寄せて微笑む。
ディオ様に明日があるのがうれしいです。また明日って言えるのは素敵です。
それから、兄に手を引かれて実家に帰った私は、半泣きの父にも抱きしめられた。
今日は、よく抱きつかれる日だわ。日記に書いておこう。
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