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呪いの蔦と闇の魔力


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 危なげなく勝ち進んだトア様は、予想通り一年生の学年優勝を果たした。


 でも、決勝戦ではひやりとさせられる場面もあった。

 確かにフローラの言う通り、全力を出していないように一瞬振るった剣に迷いが感じられた。


 ディオ様が応援席から離れてこちらに近づいてくる。

 その表情には、少しの憂いが感じられた。ディオ様が負の感情を表に出しているのは珍しい。

 私は首をかしげる。


「リアナ……弟の戦いをどう思いますか」


 ディオ様の憂いは、弟君についてだったようだ。私は、率直な意見を伝えることに決めた。


「トア様は、全力をあえて出さないようにしてるように思えました。フローラも同じ意見です」


「そうですか……。やはりリアナにはそう見えますか」


 ディオ様は微笑むが、憂いは消えていない。弟君には何か秘密があるようだ。

 ディオ様を探していたのか、弟君が私たちの方に走り寄ってくる。

 相変わらず、走っている姿さえあざといほどの可愛さ全開だ。


「リアナ様!!見ていてくれましたか?」


「トア様、とても強かったです」


 その瞬間、朗らかに笑っていた弟君の仮面が一瞬だけ外れたように感じた。たぶんこのままでは、何か良くないことが起こりそうな気がする。私は正直に答えることにした。


「――――でも、全力ではなかったですよね?」


「え……?どうして」


 なんだろう、弟君から感じる魔力はどこかミルフェルト様に似ている。

 何かが蠢くような……。


「どうして……どこで気づいたんですか」


 その瞬間、私の心臓に絡みついていた呪いの蔦が激しく蠢きだした。


「あ……」


 ディオ様の顔が蒼白になる。弟君も驚きに目を見開いた。


 ディオ様に横抱きにされたところまでは覚えていたのに、私はそのまま意識を失ってしまった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 気づくと生徒会室のソファーに寝かされていた。まだ窓の外は明るい。それほど時間は立っていないようだった。

 私の心臓は元通り、規則的に脈打っている。


 ベッドサイドに顔を向けると、泣きそうな顔の弟君がいた。


「あの……本戦は」


「まだ始まっていないし、心配すべきなのは自分のことだよ!何なんだよ、さっきの蔦まるで僕の……」


 私の予想はあながち外れていなかったようだ。おそらく弟君が全力を出さないのは……。


「トア様の魔力は、私の呪いと似ていますか」


「――――っ。それをどうして」


「なんとなく?でも、やっぱりそうなんですね」


 なんとなくと答えたせいか、弟君は唖然とした顔をした。直感で生きている部分が強いので、ご容赦いただければと思う。私もフローラのこと言えないようだ。


「ああ、でも……なんだかその呪い」


「え……?」


 弟君の指先から現れたのは、なんだかよく見慣れたような紫色の魔方陣。私の心臓に絡みつく蔦に吸い込まれていく。

 その瞬間、胸のつかえが取れた気がした。

 私の心臓に絡みついていた、呪いの蔦の締め付けが緩くなった?


「やっぱり、僕の魔力と同じものなのかもしれない」


 弟君が、出会って初めて本心からに見える笑顔を私に見せてくれた。


「リアナ様を助けてほしいって、兄さんにも頼まれた。僕の魔力にも意味があったんだね」


「えっ、でもあのトア様の負担になるんじゃ」


「いいよ。その代り一つ貸しにしておくから」


 そういって、弟君は去って行ってしまった。

 

 一方、私の魔力の出力は、なんだかおかしなことになっている。

 廊下を飛び出すとディオ様が、壁に寄りかかってこちらを見つめていた。


「すみません、肩代わりしきれなくて。トアが何とかしてくれて良かった」


 私が気を失いかけた時、たしかにディオ様に抱えられた。

 私と同じ負担を感じていたはずなのに。


「あの……ディオ様は大丈夫なんですか?」


「大丈夫。と言いたいところだけど、嘘を言ってもリアナにはわかってしまうよね。まあ今日は、もう戦いたくはないかな」


「――――なんで私だけ。ディオ様は」


「ある程度呪いの影響を除けば、リアナの力はこれくらいはあるんだよ。トアの魔力は特殊だ。リアナの受けている王家の呪いに親和性が高いんだろう。でも魔力の効果が及ぶのはリアナだけみたいだね」


 それじゃあ、ディオ様が聖騎士の力で肩代わりしてくれた負担はそのまま……。


「ディオ様、一緒に帰りましょう?世界樹の塔で休んで……」


 ディオ様は微笑むと、私の頬にそっと手を重ねた。


「そんなこと言わないで?まだ、三年生の試合は始まっていないんだ。俺もリアナの雄姿を見てから帰りたいな」


 ディオ様は体調の悪さなんて感じさせない。

 それはそうだ。呪いがその命を奪う前日まで、誰にも気づかせなかったのだから。

 それに比べて私は軟弱だ。


「リアナ?俺は慣れているだけだから、そんなに気にすることない」


「そんなの……慣れていいものじゃないです」


「ふふ。それもそうだね?じゃあ、忘れられるようにリアナが美しく戦う姿を目に焼き付けさせて?」


 ディオ様が髪の毛に口づけを落とす。

 それだけ私に言って、ディオ様は窓の外に視線を向けた。

 三階にある生徒会室の窓からは闘技場が良く見える。


「ここから見てるから」


 ディオ様は、テコでも動かなそうな雰囲気だ。

 それなら私にできるのは、少しでも早く武闘会を終了させることだ。


「分かりました。瞬殺してきます」


「楽しみにしてる」


 ディオ様が、窓の外を眺める姿を目に焼き付けて、私は走り出した。

最後までご覧いただきありがとうございました。

それから、いつも誤字報告とても助かっています。

ありがとうございます。


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