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真相に近づいても


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 漂流物のノートは、もちろんミルフェルト様と研究する。

 私たちは契約で繋がれた研究仲間なのだから。


「それで、一番にボクのところに持ってきたの?」


「だって、ミルフェルト様にこそ見る権利がありますし。ついでに読み終わったら、リアナの日記といっしょに保管をお願いしますね」


「ふふ。相変わらずだね、リアナは……。まあ、そのノートについてはボクもとても興味があるよ。当事者の一人として。父とは小さいころ別れたから、ボクはその文字読めないし」


 ミルフェルト様がアイスブルーの瞳を細めながら、髪の毛を少し落ち着かない感じで指先で弄んでいる。その発言は、セーフなのでしょうか?


「そんなに気にしてたら、何もしゃべることができないよ。もう、いいんじゃないかな」


「だめですよ!本当に最低限にしてください!」


「リアナ。キミを救うのに必要なら、ボクはすべてを……」


「――――そんなの、いやです」


 ミルフェルト様は、それ以上は何も言わなかった。私も、何も言わずに黙ってページをめくる。


 古びた紙を破ることが無いように慎重にページをめくる、その音だけがしばらく響いていた。


 残念ながら、ほとんど読み取れないのはリアナの日記と同じようだ。それなのに、最後のページだけがはっきりと読み取ることができた。


 まるで誰かが読むのを予想して魔法が掛けられていたかのように。


 ――――この世界の最初の人間は世界樹から生まれた。世界樹に起源を持たない、転移者としての力が使えるが使える俺と世界樹の力を色濃く受け継いだ彼女との子どもたちには魔法の他に祝福と呪いが宿ってしまった。


 ――――この子たちを守るには、おそらく元いた世界から呪われた世界樹に干渉するしかない。扉を使えば戻ることが可能だ。俺は元の世界に戻ることにする。


 ……その結果生まれたのがもしかして『春君』だったというのか。


 この子たち……?

 ミルフェルト様には兄弟がいた?

 扉が繋がるのは転移者のお父様の魔法?


「今の王家の始祖は……妹だよ。そういえばキミは妹によく似ている。彼女は魔法と祈りを、ボクは魔法と呪いをもって生まれた。だけど今でも王家の長男は、世界樹の呪いを受ける」


 ミルフェルト様がよろめいて、両の手で顔を覆ってしまった。


「ミルフェルト様?!」


「さすがにこれを伝えるのは無理があるか……。お願いだから今だけはボクの事、見ないでいてくれるかな?」


 ミルフェルト様が心配だ。でも、ミルフェルト様の願いを叶えないわけにはいかない。


 私は急いで後ろを向いた。


「ふふ……。リアナのそういう、ここぞという時は物わかりのいいところ。本当に好ましいよね」


「ミルフェルト様が心配です」


「大丈夫。ただ、この姿だけは人に見せてはいけないんだ。制約の代償なんて今更だけど、完全に呪いが溢れてしまうから。でも、そのまま振り返らないでいてくれるなら、今だけは……」


 後ろから背の高い人に抱きしめられた。

 長い髪が私の肩口にかかりさらさらと流れ落ちる。

 その色は大好きなアイスブルーだ。


 その人が、私の頭にそっと口づけしたような気がした。


「すぐに忘れていいから聞いて?」


「ミルフェルト、様?」


「いつも自分を戒めている紛い物の姿じゃない今だけは……伝えても許されると思うから」


 私の頭に、ミルフェルト様が顔をうずめる。

 まるで大事なものを何かから守るように抱きしめてきたミルフェルト様の腕に包まれる。


「キミのことが、何よりも大事で、誰よりも好きだよ。リアナ」


 その言葉だけ残して、抱きしめていた腕の感触は消えてしまった。


「――――もう振り返ってもいいけど。リアナ?」

 

「ミルフェルト様、今のは……」


「忘れてくれていい。幻みたいなものなんだから」


 気丈にも笑顔を見せているミルフェルト様が自分を抱くように組んでいる腕に、黒い蔦が巻き付いている。


 私が手を伸ばそうとすると、ミルフェルト様は一歩後ろへと下がってしまった。


「これ以上抑えられないから。今日はもう帰ってくれないかな」


「……どうして、ですか」


 私は思わず、ミルフェルト様の小さな体を抱きしめた。


「あなたは確かに、ここにいるのに」


 蔦が私の体にも絡まるけれど、それよりも私は……。


 ミルフェルト様が小さく息を吐き出す音が聞こえた。


「そう、ボクはここにいるよ?だけどあの姿を見る人間がもういないなら、それはボクだと言えるんだろうか?」


「――――ぜひ見たいです。ミルフェルト様」


 私からあふれ出した金色の光に触れて枯れていった蔦が足元にパラパラと落ちていく。


「助けられてしまったな……。そうだね、リアナにだけはいつか見せるかもしれない。その時ボクが言うことは忘れないでいてくれるかな?」


 その時っていつですか。

 見ることができたら何を言うんですか。

 私が見た時にあなたはどうなるんですか。


 たくさんの疑問が浮かんでは流れていく。


 それでも、ミルフェルト様の本当の姿を見るときには、呪いは解かれてきっと……。


「ミルフェルト様の姿を見たあと、この扉を出たら見せたい景色があります。私、呪いを解いてみせますから」


「ずいぶん魅力的な提案だね?期待してるよ」


 ミルフェルト様は、そう言うと目が離せなくなるような微笑みを見せてくれた。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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