呪いの謎と誘惑
しばらくアイスブルーの瞳と見つめあっていた。
冷たい色なのにどうしてこんなにも熱く感じてしまうのか。
「――――あのさ、そろそろ帰らないの?ボクはキミとずっと見つめあうのも楽しいけど」
黙っていたミルフェルト様が口を開いた。でも、私は気になることが多すぎてまだ身動きが取れないでいた。
呪いの蔦はどうしてあるのだろうか。
ゲームをしている中では点数を稼いでミニゲームをクリアするのに必死だったから考えることはなかった。
ミルフェルト様の父親が異世界からの転移者という予想は出来た。
でも、転移者とこの世界の住人が契りを交わすことで呪いが生じるというのなら、転生してきた私はどうなのだろうか。
「ミルフェルト様……もう一つだけ疑問があるんです。たぶん私自身の事だから聞いても大丈夫ですよね?」
「いいとか悪いとか関係なく答えられることならすべて答えるけど?」
そう言ったミルフェルト様に反応したのか、私の心臓に絡みついた蔦がざわめく。
ミルフェルト様から生まれた呪いの蔦。でも、なんだかそう思うと私の命を奪うはずの蔦にもちょっと愛着がわくようだ。
「そうやって、胸に手を当てる姿から、リアナが何を考えているか読めてしまうのが嫌だなボク……」
ミルフェルト様が、眉間にしわを寄せて呟いた。
そう言いながら少しずつ、ミルフェルト様が呪いの蔦を抑え込んでいく。
私の目に見えていた蔦が消えていく。
(なるほど、呪いの蔦を押さえるのはああやるのね……)
私は見よう見まねで自分の呪いの蔦を抑え込んでみる。魔力がすごい勢いで消費された代わりに、息苦しさとか胸の痛みが和らいだ。
「見ただけでできてしまうとか、本当に興味深いよねリアナは」
ミルフェルト様が、いつもの表情に戻ったから少しだけ安心する。
でも、この量の魔力を、蔦の量から予想するとたぶんもっとたくさんの魔力をいつも消費しているミルフェルト様って、もしかしてゲーム中最強なのでは?
あっ、しかも小首傾げてこちら見るとかあざといです!反則です!
そういう意味でも、申し訳ないが脳筋のヒロインと、中身が私になってしまった悪役令嬢と比べて唯一のヒロイン枠と言えるのではないだろうか。
幼女ではないらしいけど?
「それで、聞きたいことって何かな?もちろんボクの知識欲も満たしてくれるものだって期待していいのかな?」
「――――ほかの世界から訪れた人、つまり転移者と、この世界の人が結婚して呪いが生まれるなら、私みたいにほかの世界の記憶を持った人間、転生者とこの世界の人が結婚したら何が起こるんでしょうか?」
ミルフェルト様がツインテールを指に巻き付けながら笑みを深める。
「そうだね。そんな存在今までいなかったからわからないけど……リアナがこんなにも18歳までで破滅してしまう運命を持っていることと関係があるのかもね?」
「ミルフェルト様もそう思いますか」
「うん……。でも、転移者って言うやつとこの世界の人間が結ばれて生まれた存在が、転生者と縁を結んだらどうなるかも気になるなボクは」
そこまで言ったミルフェルト様は、机に頬杖をついてその瞳を三日月に細めた。なんだかとても楽しそうだ。
確かに気になる。転移者のハーフと転生者。禁断の配合ってやつよね……。
でも、それって誰と誰の事だったかしら?
「そうですね……気になります、け、ど」
――――それって、ミルフェルト様と私のことじゃないのかしら?
「――っ――――!?」
その思考にたどり着いたとたんに顔から火を噴くかと思った。
「予想以上の反応をありがとう。うれしいよリアナ」
「あわわわ……ミルフェルト様?!」
「ふふっ――――まあ、一般論だけどね」
「え?」
意地悪な笑顔でミルフェルト様が首を傾げた。
からかわれてしまったらしい。
いたずら好きなミルフェルト様らしいけど。
「でも、もしキミが呪いを解けずに終わりを迎えるなんてことになったら、ボクは遠慮しないけど」
ミルフェルト様が、ツインテールとスカートの裾を揺らして立ち上がり、私に近づく。
「さあ、今度こそお帰り?今日はキミの騎士たちのもとに送ってあげる余裕はないから、自分でちゃんと帰るんだよ?」
余裕がないって、それは、魔力が足りないという意味なのだろうか。
それとも……?
私はだいぶ混乱していた。
「ボクのリアナ……またね?」
ミルフェルト様が、私の髪の毛をそっと手に持つと口づけを一つ落とす。
扉から世界樹の塔の部屋に帰ったあと、その日一日私は何も手がつかず混乱したまま過ごしてしまった。
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