世界樹の塔探索
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世界樹の塔は、たぶんそれほど広くない。たぶんというのは、トレーニングルームなどを使う時には、その時によって、どこまでも広い平原だったり、岩窟だったりするからだ。
「そういえば、この塔は一体誰が建てたんだろう」
建国当時に建てられたと建国記には書き記されている。
ミルフェルト様に聞いたらわかるのだろうか。でも、最近ミルフェルト様になんでも質問するのは憚られる。
何か制約があるのに答えてくれて、ミルフェルト様に何かがあったらとても嫌だ。
世界樹の塔の一階は、特に何もなく、入り口のちょうど正面の壁沿いに螺旋階段があるだけだ。
「でも、地下と言ったら一階の下だよね……?」
黒いドレスのリアナは、どこから現れたというのだろうか。
「あれ?この壁、一部だけ色が違うんじゃない」
白っぽい壁に、一部分だけ少し赤茶けた部分がある。そこに触れてみると、なんとずらすことができた。
――――そこには鍵穴が。
いや、間違いなくライアス様の王太子宝物庫アイテムの鍵の出番だよね?
『一人で無茶するな!寿命が縮まる!』
ひどく焦った兄の表情が浮かんだ。
そう、ただでさえ妹に並び立つ勢いで破滅フラグを多く持つ兄の寿命を縮めるのは本意ではない。
とりあえず、フローラと私だけでは心許ないのは間違いない。世界樹の塔に入ることができるディオ様に来てもらってから探索することにしよう。
以前の私だったら、飛び込んでいたかもしれないのに、これが大人になるってことかしら?
そう納得していたのに、手にしていた赤と緑の石が嵌め込まれた鍵が突然眩く光り出した。
「あれっ?!」
「リアナ様!!」
普段おっとりしゃべるフローラの、珍しくひどく焦った声が聞こえたところで、私の意識は暗転してしまった。
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「う……いたた」
冷たい石畳みの上に倒れていたらしい。身体中のあちこちが痛い。
「鍵を差し込まなくても、近づいただけで反応する仕掛けとか予想外すぎる……」
この塔を作った人は、たぶん性格が悪いのではなかろうか。
「祭壇……?」
まるで時間が経過してないかのような室内。明るい光は……。
「うそ、もしかして電気?」
電気ではなく魔法の力で動いているように見受けられたが、フィラメントがあるその構造は電球にそっくりだった。
「それにこれは」
黒い髪と瞳をした男性と、ティアラを身につけたアイスブルーの髪をした女性が一緒に写っている。そう、写真みたいだ。
(というより、この二人の顔ってミルフェルト様に似てない?)
竜と王女が縁を結び、魔法と呪いが生まれた。
プロローグでは、この世界の設定についてそう描かれていた。
「もしかして、ミルフェルト様の、お父様とお母様……?」
そう呟いた瞬間、再び手元に握りしめていた鍵が光り輝いて私は気付けば、世界樹の塔の一階に戻ってきていた。
そこには泣きじゃくるフローラと青ざめたディオ様がいて。ん?時間にして10分くらいしか経ってないですよね?
まさか……。
禁書庫の奥の隠し部屋が思い浮かぶ。
「あ、あの……私どれくらい居なくなってました?」
「ちょうど一日だよ……リアナ」
やっぱり、長居してなくて本当に良かった!ミルフェルト様の隠し部屋よりも時間の経過がかけ離れていた!
またしても心配をかけてしまった。そして塔を出たところで待ち構えていた兄に抱きつかれる。
そして、そのあとお説教された。踏みとどまろうと思ったのに……。
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