地下の鍵
✳︎ ✳︎ ✳︎
夏休みが来た。ミルフェルト様に、学園に行かなくても毎日会える。でも、なぜかミルフェルト様のところにいくと、先客が必ずいるのだ。
「ライアス様?」
「久しぶりだな、リアナ」
禁書を片手に振り返るライアス様は、今日は王太子らしい服を着ている。肩の房飾りも、王族だけが赦される濃い赤色のマントも、まさに王子さまではないか。
「本当に王子様……だったんですね。ライアス様」
「なにバカなことを言っている。俺は生まれた時から王子だ」
たしかに、私も生まれた時から公爵令嬢でしたね。
この世界では当たり前のことも、乙女ゲームをしていたときの微かな記憶が邪魔してとても不思議なことに思える。
「リアナ。今日も来たの?それにしても、こんなに毎日人が来るなんてね」
アイスブルーのツインテールを今日も揺らしたミルフェルト様が、自分が読んでいた本を閉じる。
「リアナ……無理に毎日来る必要ないんだよ?」
「えっ!何言っているんですか?まさか、遠回しに来るなって……」
「それはないよ。なんでそういうことだけ深読みしちゃうかな?ボクとしてはもっと、気づかないといけないことがキミの周りにはあふれていると思うんだ」
そういいながらも、穏やかな笑顔のミルフェルト様。今のところ、特に問題があるようには見受けられず安心する。
「それにしても、なにか見落としていることがあるってことですか?」
「はあ、そういうのは自分で気づかないと仕方ないだろ?ほんと鈍感だな」
ライアス様にそんなこと言われるのは、心外です。
ライアス様こそヒロインと進展しないメイン攻略者として、もっと自覚を強めた方が良いと思いますよ?
「まあ、そのままのリアナがボクはいいかな」
「ミルフェルト様」
「見ていて飽きないから」
ミルフェルト様こそ、ちょっといじわるです。私が唇を少しとがらせると、ミルフェルト様は楽しそうに笑った。
「ああ、そう。あったら渡そうと思っていたんだ」
ライアス様から渡されたのは、古びた鍵だった。
「世界樹の塔の鍵らしい。宝物庫の奥で漂流物とともに置かれる小さな箱に入っていた。世界樹の塔の鍵だという説明書きとともに」
「え?世界樹の塔は鍵が無くても入れますよ?」
「ああ、資格がないものが入れるのかと試したが、やっぱり入れなかったからリアナに渡しておく」
え?不法占拠に近い状態で住み着いている私が言うことじゃないですけど、乙女の部屋に勝手に入ろうとしたんですか?
「……鍵が使えるか試しただけだからな!」
ジト目でにらむ私から少し目線をそらし頬を赤くしたライアス様。もし、入れたら意気揚々と最上階まで来る気でしたね?!
まあ、今となっては半分くらいは公爵家で過ごしているから、もう塔に引きこもってもいないですけど。
「あの、説明書きも見せてもらえませんか」
「ああ?これだが」
説明には王国の言葉で、世界樹の塔の鍵と記されている。
「あれ、この字ってリアナの手記のやつと同じじゃないの?」
ミルフェルト様の言う通り、古びた説明書きに小さく書かれているのは日本語だった。
――――地下に
これも、漂流物なのだろうか。たった三文字の走り書き。私の字にとても似ている。
それにしても、地下とはいったい何なのか。
あまり時間はないけれど、夏休みのうちに探さないといけないってことなのかな。
私は、世界樹の塔に戻ることにした。
世界樹の塔の最上階にここへの扉が常設されているので、移動時間がほぼゼロ。本当に素晴らしい。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるととてもうれしいです。




