二年生武闘会それぞれの展開
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ライアス様と、フローラが決勝戦に残る。
『春君』の中でも、この場面は描かれていた。とはいっても、ヒロインの攻撃力をひたすら鍛えてこなければこの場面は見られない。
脳筋ヒロイン専用シーンなのだ。
つまりのところ、ゲーム内でのこの展開は2人には恋の一つも芽生えていないはず。それなのに、今日のライアス様のフローラに対する物言いはどこか違ったような気がした。
(どっちも応援したいけど、それ以上にこの後の展開に期待してしまう)
そんなぬるい気持ちは、しかし試合の開始直後に吹き飛んでしまった。
「ライアス様!私もあなたの前でだけは、誰にも負けたくありません!」
「応えてくれてうれしいよ。じゃあ、本気でやりあおう」
さっき、私が瞬殺されたライアス様のスピードに乗った攻撃も、ゆらゆらと揺らめくようなうごきをしたフローラが受け流してしまう。その体から、残影のように七色の光が尾を引いている。
去年のただ、突撃していたフローラはもうここにいない。
(なんだろう。色合いとか聖女らしいのに、なんだか悪役令嬢リアナの戦い方と似ていない?)
ラスボスのリアナの場合は、黒い幻影が尾を引いていたけれど。なんだか、魔力が不安定で少し危うく見える。
「――――もう私だけ幸せになって絶望したくない」
そう、フローラが呟いた声が私の耳になぜかはっきりと届いた。
そのまま、会場は七色の光の波に飲み込まれていく。
「フローラ!」
焦ったような、ライアス様の声が聞こえる。でも、ライアス様が居ればフローラはきっと大丈夫なのだろう。
光の波が消えると、そこには魔力を使い果たして気を失ってしまったらしいフローラが、ライアス様に横抱きにされていた。
「はあ、本当に調整の効かないやつだな」
ライアス様が無事なようでほっとする。
おそらく、フローラは魔力暴走を起こしたのだろう。
それほど、強く何かを思いつめていたのだろうか。たぶん、私の呪いと繰り返す運命が原因だと思うけど、ライアス様とのことも原因だったら楽しい。
学年優勝はライアス様に決まった。それなのに、ライアス様は学園一位を決める総当たり戦は棄権すると申告した。
「フローラをこのままにして、俺だけ戦うなんてできない」
脳筋に育て上げたヒロインでは、けして聞くことができない台詞いただきました!
この後の展開に期待してもいいんですよね?!そのまま、フローラをお姫様抱っこしたライアス様は、会場を後にした。
本当は後ろからつけていきたいけれど、さすがにそれはやめておく。
でも、一つだけ気になることが私にはあった。フローラが絶望していたって、ハッピーエンドのことなのだろうか。
ヒロインが絶望なんてしたら、世界樹の呪いだって抑えることができないのでは……。
そうやって、世界は繰り返してきたのかもしれない。他の世界でフローラが絶望してしまった原因が、私や兄、そしてディオ様に関連していると考えるのは自意識過剰だろうか。
そんなことを考えているうちに、三年生が決勝を迎えていた。会場の歓声が最高潮を迎え、その音に私は我に返った。
「ランドルフ様……?」
ライアス様の時にも驚いたのに、ランドルフ先輩の成長は予想を大きく超えていた。
ランドルフ先輩は水の魔法は使えるが、攻撃にはほとんど魔法を使うことがない。回復や呪いの解除など補助メインだ。
そんなランドルフ先輩が戦う姿は、もう信じられないくらい強かった。
(去年の兄よりも、強い。ディオ様とも剣技だけなら互角なんじゃないの……これ)
私はぼんやりと、ライアス様がランドルフ先輩に言っていた、卒業後は騎士団長になれという無茶な命令を思い出した。それを、そのまま実行しているのか。
「あーあ、剣技だけなら完全に抜かれてしまった。搦め手で勝つしかないなこれは」
振り返ると、兄が後ろに立っていた。たぶん、ランドルフ先輩をここまで強くしてしまった張本人なのだと思う。
そして、実力も伴う頭脳派の兄による搦め手……絶対誰も勝てないと思う。想像してしまった私の背中には冷たい汗が流れる。
「お兄様、ランドルフ様にどんな訓練をさせたのですか」
「あいつ、俺がやる訓練すべてについてきたからな……。それなのに、成長速度が俺より早いんだよ」
まあ、兄は基本的には頭脳系のオールマイティ型で、戦闘力はそこそこなはず。戦闘メインのステータスをしたランドルフ先輩が、もしも兄と同じ努力をしたら……。
「え?王国にどんな戦闘マシーンを作る気なんですか。お兄様」
「は?俺のせいじゃなくてお前のせいだろ」
兄は長い溜息をついた。感情を隠した笑顔。この表情をした時の兄から真相を聞き出すのはほぼ不可能だと妹は知っている。
私のせいというのは、私の呪いに巻き込んでしまったからという意味なのだろうか。
だとしても、ちょっとおかしいレベルで努力する兄と同じ努力をする理由には弱い気がする。
「まあ俺としては、そのまま気が付かないでいて欲しいけどな?」
兄が複雑そうにそう言った。
「ほら、ランドルフがまたこっちに来た」
ランドルフ先輩は汗の一つも流さずに涼しい表情だ。この人が王国騎士団の団長になるなら、王国は大陸最強国をこれからも名乗り続けることができそうだ。
「ディルフィール。見ていてくれた?」
「信じられないくらい強くなったんですね。ランドルフ様」
「守りたいものがあるなら、強くなるしかないって後ろでにらんでいるお方に教わったから」
ほら、やっぱりお兄様のせいでランドルフ先輩は強くなったのではないか。私はそう思って兄の方を振り返ろうとした。
「ディルフィールに、学園優勝を捧げるから」
「……宣戦布告ですか」
「え……ちが」
「私も負けません!総合優勝をまだあきらめてないですから!」
なんだか、ランドルフ先輩が微妙な表情をしていたが、ライバルとして構わず熱い握手をした。そして私は、総合優勝に向けて一つの決意をする。
兄も言っていたではないか。正攻法で勝てないなら搦め手を使えと!私は、もてる力のすべてを出し切って戦うことを心に決めた。
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