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新学期のはじまり

ご覧いただきありがとうございます。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 入学式。たしか、新入生代表は王太子殿下だったはずだ。はずなのだが。


(どうしてこうなった?)


 実技試験の成績は良くなかっただろうにもかかわらず首席入学を果たしてしまったため、私が代表を務めることになってしまった。

 それでいいのか王太子。それと、公爵家の威光を裏で使ったりしてませんからね皆さま?


「新入生代表。リアナ・ディルフィールです。難しいことは言いません。学業に、剣技、魔法の力で己を鍛え合い素晴らしい青春をともに送りましょう。以上!」


 こういう時の挨拶は短いほど良い。それが私の矜持だ。聖女として神殿で訓示を垂れなくてはならないときも、100文字以内に要約することにしている。


 引きこもりとして緊張に耐えられなくなるからではない。断じてない。


 そしてなぜかウケている。その中でも、ピンクブロンドの髪をした可愛い女学生が全力で拍手をしているのが見えた。


 たぶん、私が生き残るためには主人公のフローラの力が絶対に必要だ。邪な理由で申し訳ないが、できるだけ仲良くしておきたい。


 そしてもちろん私のクラスはSだった。


 教室に入ると全員から好奇の視線で見られた。緊張するからそんなに見るのはやめてほしい。裏口じゃないですから!

 もちろん主人公と王太子もSクラスに在籍していた。


(とにかくヒロインと仲良くなるのよ!王太子にいじめ疑惑をかけられる前に!)


 断罪回避のため、主人公と仲良くなる計画を開始することにした私は、とっておきの笑顔を張り付けて勇気を出して声をかけた。


「こんにちは。隣の席に座ってもよろしくて?」


「はっはい。あの、私フローラって言います。さっきの代表あいさつ素敵でした。熱く心に突き刺さりました。あの……ディルフィール公爵令嬢様」


 かわいらしく、しかし貴族令嬢の礼をしてみせて主人公が返事をしてくれた。

 ちょっと心に突き刺さった辺りは個性的だけど、それ王太子に言う台詞に酷似している?


 それに、なんだかゲームと違う印象……?


「リアナと呼んで下さるとうれしいわ。学園は平等をうたっているのですもの」


「リアナ様!私の事もフローラとお呼びください」


「フローラ。よろしくね?」


「はわぁ。公爵令嬢素敵すぎる」


 最後の方、聞き取れなかったけれどなんだかおもしろい子だわ。


 確か、ゲームでは王太子殿下をいきなり名前呼びして悪役令嬢リアナに目をつけられていたけど、ちゃんと礼儀もあるみたい?私の呪いの件を抜きにしても仲良くできるかも。


 そう思っていると王太子が近づいてきた。


「久しぶりだなディルフィール」


(来た!断罪フラグ!)


 光魔法を見出された平民の特待生をいじめたりしてませんよアピールをするべく、すっと立ち上がると完璧な淑女の礼を披露する。


「お久しぶりにございます。ライアス・スプリングフィールド王太子殿下」


「たった今、学園は平等と言ってたのはお前だろ?ライアスと呼んでいい」


「まあ……ライアス様。では、私の事もリアナとお呼びくださいませ」


「ああ、リアナ。……なんで今まで俺を避けていた」


 出会い頭に、いきなり核心ついてきたよこの王太子。そりゃ、婚約の打診が王家からあっても全力で避けてきましたもの。破滅フラグは全回避です。


(それにしても、そこは『学園は平等だ。特待生に難癖をつけるな』じゃないのかしら)


 しかし『破滅フラグを全回避するためです』なんて言うわけにいかないわね。ここは伝家の宝刀。聖女を使わせていただこう。

 私は、少し困ったように見せるため、手のひらを頬に当てて首を傾げる。


「聖女として祈りを捧げることに忙しく。……お誘いに応えることができず申し訳ありません」


 どうだ!王族といえど、国の安寧を祈る聖女に難癖をつけることは出来まい。


「――まあ、そういうことにしておこう。それから、次の試験では負けないからな!」


 沈黙が気にならないでもないけれど、わかって頂けたようで良かった。


 不敬を問われて断罪されては敵わないものね。試験については私も負けるわけにはいかないけど、正々堂々頑張りましょうね!


 その時、私たちの会話を固唾をのんで見守っていたクラスメートたちからざわめきが起こった。

 振り返ると神々しい光が差し込んだような気がして思わず目を細めてしまう。


 そっと目を開くと今日も輝かんばかりの笑顔をみせて、ディオ様が教室の入り口に立っていた。


「リアナ。制服もとても似合うね。放課後一緒に図書室に行ってみないかと誘いに来たんだけど」


「ディオ様」


「Sクラス首席しか入れない禁書庫の説明を例年3年生の首席が1年生にすることになっているんだ」


「そうなん……ですか」


 たしかに、呪いの謎を解くために禁書庫に入ることが、私が首席を目指した理由の一つだ。

 それにしても、ディオ様は首席なのね。そういえば兄が今年は首席を逃したって悔しがっていたわ。


「ありがとうございます」


「では、放課後に迎えに来るよ」


 ディオ様のオーラがすごい。もう天使様と呼びたくなる。クラスメートたちも固まっていた体をようやく動かし始めた。


「今の方、すごかったですね」


「ディオ様?確かに素敵な方よね」


 フローラもディオ様の魅力に驚いているようだ。しかし、その後に続いた言葉は予想外のものだった。


「だって、あの方。むちゃくちゃ強いでしょう?手合わせお願いしたい」


「うん?」


「あ。リアナ様も強いですよね。授業で手合わせしていただけるの凄い楽しみです!」


「うん……」


 その台詞と、小首を傾げた可愛らしい仕草に違和感しかない。


 なんだか、可憐な印象だった主人公のイメージがどんどん崩れていく気がする。聖女候補で誰もが守ってあげたくなる存在……のはずだよね?


 そういえば、世界樹の塔で体力と剣技をあげるトレーニングだけを繰り返すと、敵を瞬殺する脳筋系主人公が出来上がるんだった。

 もちろん攻略対象者との仲は進展しないから誰得な感じで聖女になってエンディングを迎えるのだけれど。


 もちろんそのルートでも、悪役令嬢リアナは自滅する。悪役令嬢リアナ、不憫だ。


(ま、まさか……ね)


 それでも、悪役としてクラスから孤立したり、王太子にやたらと敵視されることなくスタートが切れて私はほっと胸をなでおろしていた。

クラスメートA「むちゃくちゃ可愛いピンクブロンドの特待生。言ってることがなんかおかしくないか?」

クラスメートB「可愛いんだからいいんじゃないか」


最後までご覧いただきありがとうございました。


いつも誤字報告くださる方、ありがとうございます。とても助かっています。

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