最後の砦は禁書庫に
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「……っふ。それで、ボクのところにまた来たの?」
放課後、ミルフェルト様を訪れた。結局、ミルフェルト様は世界樹の塔最上階に扉を作ってくれないから、王宮経由で訪れている。最近、兄とディオ様は会うとなんだか微妙な空気になってしまって居た堪れない。
「ミルフェルト様は私の癒しなんです」
「永い間過ごしてきたけど、そういう評価をされるのは初めてだね」
そうなのだろうか。今までここを訪れた人間は見る目がないとしか言いようがない。
見ているだけで可愛らしく癒されるお姿。幼女ではないらしいが、またそれも素晴らしい。
「そもそも、今までの世界ではリアナがその世界征服的な役割担当だったのにね」
「……やっぱりそうなんですかね」
そんなに大きな野望を持つから、18歳破滅フラグが折れないのだ。引きこもっても折れなかった強靭なフラグだけれど。
「でも、キミに絡みついていた18歳でどうしても破滅する運命。ほとんどが消えてなくなっているんだよね。気が付いていた?ま、今まで破滅の運命に関わってたキミの周りの人間が、キミを助けようとしているんだから当然か」
「え?!まさか、うれしすぎます」
「その分、世界樹の呪いの運命が強くなっている気もするけど」
ダメじゃないかそれ?!私の運命に世界の平和巻き込んでいるんじゃないの?!
(あ――――っ。心臓に絡みついている蔦がすごいざわざわしている!)
「いざとなったら、私だけが呪いを受ける……そんな方法はありませんか」
「そうだね。そういう自己犠牲ってボク、あまり好きじゃないけど。……時間を止めてボクと永遠にここで過ごすっていうのはどうかな?」
ミルフェルト様と、永遠にここで過ごす。時を止めて?
「そうすれば、世界樹の呪いは私だけが受けることができるんですか」
「――――少なくとも、今の世界の分だけはできる可能性があるね」
でも、そうしたらディオ様や兄にはもう会えない……。ライアス様やフローラ。みんなにも?
「――――ボク、キミの涙には弱いんだけど」
「な、泣いてません!」
「ボクにとっては興味ある理想的な未来だけど。そうしたらキミは今みたいに輝かなくなってしまうんだろうね?……それじゃ、研究対象失格だよ」
「ミ、ミルフェルト様!」
ミルフェルト様が、私を研究対象として興味持ってくれないの困る!会ってもらえなくなってしまうじゃないか。
「でも、もし間に合わなかったら、必ずここに来るんだよ?ボクにとってはメリットしかない魅力的な案件なんだから」
「ミルフェルト様は、いつも優しいです」
冷たい光をたたえたアイスブルーの瞳が三日月を描く。
「――――ボクが優しい?これでも永年みんなに恐れられてきたんだけど?」
「……それは、皆さんの見る目がなかったんですね」
それだけは間違いない。ミルフェルト様は出会ったその日から優しかったのだから。
「兄妹そろって馬鹿なリアナ」
ミルフェルト様はため息をついた。そして笑う。
「でもさ、ボクはリアナには、ずっと輝く研究対象でいて欲しいから。大丈夫、きっとそんなつまらない結末にはならないさ。じゃ、またね?」
今日もミルフェルト様に、禁書庫から強制的に離脱させられてしまった。今日の王宮図書室には兄が目の前にいた。ディオ様も兄も本当に勤勉ですね?
「お前はいつも俺を驚かせてばかりだな、リアナ」
「ごめんなさい、お兄様」
兄はどんな反射神経か、私をお姫様のように抱き留めている。
「最近忙しかったから、ただいまも言えなかったな」
兄の笑顔が今日もさわやかだ。微妙な空気にならないように、気を使っているのだろう。
「ミルフェルト様のところに行っていたのか……。結局、確実にリアナを救えるのはあのお方しかいないんだな」
「……お兄様。ミルフェルト様にあの話聞いたんですか」
「いざという時には、俺からも頼んである」
「――お兄様は、私に会えなくなっても平気なんですか?」
つい聞いてしまったそれは、言ってはいけない言葉だった。そう気づいても、出てしまった言葉はもう取り返すことは出来ない。
兄は、一瞬だけ下を向いた。そして、すぐに顔をあげると、いつもの笑顔で言う。
「ごめん、余計な一言だった。……そうなったとしても俺は平気だ。だから、もし間に合わなかったらその未来を選んでくれないか」
兄にまた、余計な気を使わせてしまった。胸がひどく痛い。でも、私はこんなに兄と離れたくないのに。兄は……平気だと言うのか。
兄のやさしさを台無しにしてはダメだと私の理性が叫んでいる。
それなのに、どうしても耐えられなくて私は叫んでしまっていた。
「お兄様の、大馬鹿!鈍感!」
「リアナ…………」
「うっ。――――巻き込んでごめんなさい、お兄様。――――大好き」
兄の事を嫌いだなんて言うことができない。いっそ、そう言ってしまえたら、兄を運命に巻き込まないでいられるかもしれないのに。
黒いドレスのリアナは、きっとそれを選んできたのに。でも、それでも兄が私を庇ってしまうなら、もうそれすら選択することができない。
「その言葉だけで十分だから。嫌いだなんて言わないでくれよ?」
兄は決意を秘めた表情で、私を見つめてくる。巻き込みたくない。生きていてほしい。幸せになってほしい。
――――そばにいたい。
「私も、お兄様が幸せになってくれるならそれで充分です」
「わかってる。ちゃんと幸せになるから、もうこれ以上俺のことは心配するな」
微笑んだ兄は、小さいころにそうしてくれたように、優しく私の頭を撫でた。
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