聖騎士の祝福を兄は上書きする
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王宮図書室から、先ほどのディオ様の言動にひどく混乱して、ほとんど無意識に家まで帰ってきた。
「おかえり」
「おっ、お兄様!きょ、今日はお早いお帰りですね」
「そうだね……」
家に帰ると、少し苛立たしげに腕を組んだ兄が玄関ホールの柱に寄りかかりながら立っていた。
私はここのところ立て続けに起こった、兄とディオ様からの行動を思い出し、なぜか挙動不審になってしまう。
そして、兄の顔が近い。私の顔のすぐ近くで、なぜか頬をじっと見つめている。
「お兄様?」
少しだけ、溜息をついた兄。
「リアナそれ、聖騎士の祝福?」
「え?聖騎士の祝福?」
身に覚えがないけれど、聖騎士といえばディオ様のことですよね?
私の頬に触れ、そっと指で撫でながら「気づいてないのか……」と、眉を寄せたまま兄がつぶやいた。指先で撫でるのは、くすぐったいからやめて欲しい。
もしかして、さっきのアレは聖騎士の祝福ってやつだったのだろうか。
(それじゃ、私の……考えすぎ?)
いや、でも愛しいって。ん?それは以前から言われ続けていたような?
「ディオから聞いていたし、リアナが助かる可能性が上がるなら、俺は構わないけど。でも、あからさまな場所にわかりやすく牽制されると、それはそれでイラッとするな」
「お、お兄様……?」
兄とディオ様は、事前に打ち合わせを?私の混乱は、増すばかりだ。
「――――俺だって、リアナのためなら」
そこまで言うと、兄は口元を手で押さえて顔を背け、言葉を呑み込んだ。
「ごめん、俺もこの間から冷静じゃないみたいだ」
「お兄様、私ちゃんと続きが聞きたいです」
いつかの記憶のように、最後の最後に何か大事なことを言うなんて悲しすぎるから。
なんでも抱え込んでしまう兄は、それでも自分の力で解決してしまうからすごく頼りになる。でも、その分傷ついているんじゃないかと、時々とても私を不安にしてしまう。
「――――リアナ?」
「心に留めすぎるから、いけないんだと思います」
その時に見た兄の表情を、たぶん忘れることはもう出来ない。まるで焦がされそうに強い瞳のまま、私を切なげに見つめた兄の顔。
「リアナは、俺に鈍感って言ったけど……」
「えっ、それ言ったの私じゃなくて黒いほう……」
「リアナのこと、護りきったら全て伝えるって決めているんだけど、俺の願いを言ってもいいのなら」
兄の唇が、頬に触れる。ディオ様の口づけを、まるで上書きするように。
「それまで、誰のものにもならないで?」
兄は、先ほどまでの表情を隠し、いつも通りの笑顔を見せた。
ちなみに、鏡を見たら頬にキラキラ輝く白銀の魔力の跡が付いていた。
兄が言ってたのは、これの事だったのね。次の日目が覚めたら、そのキラキラは無事消えていた。
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