解決への新たな鍵
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その後も何回か神殿の奥へ行ってみたが、一番奥の部屋の扉はもう開かなかった。
周回を繰り返した私たちは、それでもだいぶ強さに磨きをかけた気がする。幻獣もどんどん強くなっていたから、間違い無いだろう。
でも、目的は達成したはずなのに、初夏の休みが終わっても、私の心はザワザワしたままだった。
「はあ。ミルフェルト様にお会いしたい」
混乱した時は、アイスブルーのツインテールが恋しくなる。ミルフェルト様に会いたい。王宮図書室から、扉をくぐる。
「やあ、会いにきてくれて嬉しいよ。いらっしゃい。また、何か進展があったのかな?」
「ミルフェルト様……私、神殿の奥に行ったんです」
「ああ、あの部屋。何があったの?」
「たぶん、別の世界の私がいました」
その言葉を聞いたミルフェルト様が意外そうな顔をした。
「だいぶ昔に来た別の世界のフローラが、あの部屋にはドラゴンがいたと言っていたよ?」
攻撃力が足りないと、ドラゴンが出る。知力が足りなければ、スフィンクスに出会う。魔力が不足なら古の魔術師が。そして、全てを満たせばラスボス直前のリアナが。
――――もちろん私たちは知力も攻撃力も、魔力だっておそらく基準をクリアしている。でも、ゲームのリアナとは見た目も雰囲気も違っていた。
もしかして隠しステージの、隠し条件をクリアした?それって……隠しルートへのフラグに近くない?
聖女が二人に、いないはずの聖騎士、あり得ないほど高レベルの攻略対象者。それはゲームではあり得なかったパーティー編成。それが、隠しルートの解放条件だったとしたら。
「ふふふ。ねえ、気がついていないんだね。ボクが当ててあげようか?キミに与えられた報酬を」
「ミルフェルト様?」
ミルフェルト様が近づいてくると、私の首元に手をやり紐に下がった小さな袋を取り出した。世界樹の雫と、竜の血石の二つが入った袋。
ランドルフ先輩に注意されてから、直接下げるのをやめたのだ。
「ほら、二つが一つになっているよ?」
「え?うわ、本当!」
色々ありすぎて気がつかなかった。二つの石が、一つになって七色に輝く宝石になっている。
この石の名前を、私はまだ知らない。でも、重要アイテムなのは間違いないだろう。
「リアナはいつも無意識でそういうことをしてしまう。ほんとすごいよね」
「ミルフェルト様は、この石の名前、知っているんですか」
「名前は知らないけど、たぶんその石はリアナを助けてくれると思うよ?」
「じゃあ、ミルフェルト様のことも助けてくれますかね……?」
瞠目したミルフェルト様が、信じられないとでも言うように、口元を押さえて暫しの間動きを止めた。
「キミってさ、そういうの無意識なの?」
「え?どういうことですか?」
「はあ。だからボク、聖女って嫌なんだよ」
ミルフェルト様が可憐に微笑む。わかりました。研究成果によるとその笑顔は、もう答えてくれるつもりはないってことですね。
「まあ、もう少し時間はある。また来てくれるとうれしいな」
「そうですね。じゃあ、そろそろ世界樹の塔の図書室に常設の扉つけてください!」
「……キミってさ、本当に危機管理がなってないよね?」
え?ミルフェルト様のところにいざとなったら逃げられるし、安全対策バッチリだと思うのですが?
「ボクがキミに何かすると思わないの?」
「ミルフェルト様が、私に何かする……ですか?」
こんなに愛らしいミルフェルト様が私に危害を加えるわけがないという信頼はもう最高レベルまで振り切れているのですが?
「――――はあ。本当に、フリードもディオも気の毒だよ」
「えっ、それってどういう」
「ボクのものになる覚悟があるならいつでも設置するけどね。またおいで、リアナ?」
「えっ、どういうこと……」
しかし、今回は強制的に禁書庫の外に出されてしまったようだ。
「ひゃっ?!」
放り出された先は、王宮図書館の机の上で、いつのまにか来ていたらしいディオ様の顔がくっつきそうなほどの目の前にあった。
驚いた顔のディオ様。驚いた顔さえ絵になっている。その顔を見つめて、あまりのことに私も固まって言葉を失ってしまった。
たぶん、ミルフェルト様は、わかっていてやっている気がする。
そういえばディオ様は、いつもなんの本を見ているんだろう。興味を持ってしまい、そのまま視線を下に向けたが、そこには全く読めない文字が並んでいた。
(……古代文字?)
「――――リアナは、なぜか会いたいと思うといつも目の前に現れるね?」
ディオ様が立ち上がり、私を抱き上げると机から下ろしてくれる。たしかにお行儀が悪いからね。でも、自分で降りられますよ?
「私に会いたいと思っていたんですか?何か用がありますか?」
「はは、そういうのじゃないけど。まあ、用があるといえばあるかな。この文字、特殊な魔力を流さないと読めないんだよ」
ディオ様が、古代文字を指先でなぞった。なぞった跡が煌めいて、文字の上にさらに文章が浮かび上がる。
「少しだけ、前進できそうだから」
そんな文字まで読めるとか、本当にどうなっているんですか、ディオ様は……。
感動半分、呆れ半分にディオ様を見つめる。でも、見つめすぎてはいけないことを私はもう知っている。
ここまで近づいたご尊顔は、キラキラ輝きすぎていて目に毒だから。
「そういえば、フリードから何か聞いた?」
「えっ?どうしてですか」
「聞いたんだ。……そろそろ、俺もリアナに対して本気を出そうかな?」
そう言って、なんだかすごい色気を漂わせたディオ様が、私の頬にそっと口づけをする。
「――――っ。――えっ?!」
「リアナは、愛しいって意味、知ってる?」
頬を掌で押さえたまま、それくらい私だって知っていると考える。愛しいの意味は。
「愛しいリアナ。また明日」
いつもなら何気なしに答えることのできたその挨拶にさえ、私は返事ができなかった。流石に、この混乱ははっきりしすぎていて、蓋をすることはできそうもなかった。
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