見つめ直す関係
強く手を握られたまま引き寄せられて、七色の光の洪水が収まった時、私はディオ様の腕の中にいた。
「リアナ……」
「ディオ様……私は」
「ごめん、約束したのに、すぐに守れなかった」
「いいえ、確かに守ってくれました」
ディオ様の手が冷たい。たぶん、画面を通して時々見ていたのが、あの黒いドレスを着た私なのだろう。それが幻なのだとしても。
「ディオ様が、今ここにいてくれるから、私は今日も笑顔になれるんですね」
「それは、あの時リアナが俺を救ってくれたから」
「逆ですよ。あれは私のためだったんだと、今ならよくわかります。7歳の時に記憶を取り戻したのも、全てあなたを救うためだったんだって……」
ディオ様を助けることができず、兄にさえ庇われて失ってしまったら、私は自分を許すことが出来ないだろう。
「――――それなら、今度は俺の番だね。リアナがいなければ、俺は笑顔になんてなれない。俺は、俺のためにリアナを救ってみせる」
そっと、私から離れたディオ様は、優しく笑った。でも、瞳には強い決意を秘めていて。
「今日はもう遅い。また明日」
「そうですね。また、明日」
ディオ様は、別れを告げると踵を返して去っていった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
解散した帰り道、やはり私は兄と手を繋いでいる。兄の卒業とともに、手を繋ぐのも卒業かと思ったのにそうでもなかったようだ。
「お兄様、さっきはありがとうございました」
さっきも、もうダメだと思ったのに、兄が助けに来てくれた。そして、幻の中にいた私の心まで救ってしまった。たぶん兄は鈍感だから分かっていないけれど。
さすが兄だ、懐の広さは無限大だ。
「――――リアナ、俺のこと好きか?」
「……珍しいですね。お兄様がそんなことを聞いてくるなんて」
いつも私に好きだと言ってくるのに、自分のことを聞くのは臆病な兄。なんだか、出てきてからへこんでしまっている兄は少し情けないけれど。
「実は、大嫌いだったとか……」
「大好きです」
「――――そうか」
「世界で一番大好きです」
たぶん、私は今のところ世界で一番兄が好きだ。兄妹なのに困ったことだ。私がピンチの時に、いつも一番に兄が手を差し伸べてしまうせいだと思う。
私は、兄が心配です。大好きな兄には、ちゃんと幸せになってほしいです。
「お兄様は、世界一大好きなお兄様です。それ以外にあり得ないです」
「――――まあ、兄だからな」
大好きだと言ったのに、何故か兄は複雑そうな顔をした。なぜだろう、やっぱり幻の中の私が大嫌いと言ったからだろうか。
「――――もしも俺が兄じゃなかったとしたら、リアナはどうする?」
「え…………」
そんな事、考えたこともなかった。大好きな兄が、もしも兄じゃなかったら?砂嵐の音と、歪んだ画面が脳裏に浮かぶ。兄のこと……私は。
『そんなの答えはひとつだリアナ。俺は本当は……』
あの、画面の中、最後に兄はなんて言ったの?
――――パチンッ
「悪かった。真剣に考えるなよ。例えばの話だ」
なぜか兄にデコピンされる。それは、とても軽いものだったのに、なぜか胸がひどく痛んだ。
兄はいつも通りの笑顔だ。取り繕った笑顔とは違うその笑顔を見れば、いつも安心できるのに。
それでも、私たちは手を繋いで帰る。なんだか、繋いだ手が燃えるように熱いことだけがいつもと違っていたけれど。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そして、隠しステージでフローラは聖女の最高魔法を手に入れたが、何故か私はなにを手に入れたのか、よくわからなかった。
あの七色の魔法陣は、確実にクリアの報酬なのだろうけれど、新しい魔法が使えるようになったのか、よく分からないのだ。
それよりも、兄の言葉ばかりを繰り返してしまう。
(お兄様が、兄じゃなかったら……?)
えっ、そうだとしても兄は兄だよね?世界で一番大好きな、私の兄。
心から愛しい私の……。心から愛しい私の……?
あれっ?兄の卒業式の時もこんなふうに悩んでいた気がする。
私は混乱してまとまらなくなってしまった心に、とりあえず蓋をすることに決めた。
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