聖女の補助魔法の重ね掛け対象
「フローラ!単独行動するんじゃない!」
「はっ……私ったら。ごめんなさい、ライアス様。――――この先で誰かが呼んでいる気がして」
いまだに七色の瞳のままのフローラ。その腕をライアス様が掴む。2人の瞳が交差して……ロマンス?ロマンスなのかな?!
私が期待に満ちた目で2人を見つめていると、ライアス様が口を開いた。
「フローラ!この間練習したコンビネーションを試そう!」
「うわぁ!なんて魅力的なお誘いしてくるんですか!どこまでも貴方とともに!」
七色の瞳が、もとの蜂蜜色の優しい色合いに戻っていく。
いや……『どこまでも貴方とともに』は、確かに最終決戦の前にフローラがライアス様にいう台詞なんですけどね。でも、なんだか思っていたのと違う。
ああああ!単独で突っ込むのが二人に増えただけじゃない?しかも王太子が最前線に立ってどうするの?!王太子になにかあったら、ここにいる全員断罪になるんじゃないの?!
断罪……ダメ、ゼッタイ!!
「あ――――。ああなったライアス殿下は止まらないからな」
兄が一番に駆けだす。熱い性格とは裏腹に、いつも状況を冷静に観察している兄。その判断は、いつでも的確だ。
「リアナ。どちらにしても、俺たちも進もう」
「ええ、ディオ様」
誰が先頭になろうと、私たちが前に進むことに違いはないのだ。それなら私にできるのは。
走りながら身体強化を発動する。今回は自分は、みんなについていける最低限しか強化をしない。
「ディオ様、私今回は補助に回るので、戦えませんし避けられないと思います。守ってくださいね」
「言われるまでもなく。必ず守ります……リアナ」
ライアス様と兄から驚愕の声が上がる。
「なんだこれ?聖女の力ってこんなに強いのかよ」
「リアナ、あまり無理するな?!」
そう言いながらも、動きが全く変わってしまった二人が幻獣を倒す速度は見る間に上がっていく。ロイド様の指導を受けたフローラも、すごい勢いで幻獣を倒す。
(フローラ、その光をまとって戦う姿は、聖女というよりも勇者という言葉の方が似合う気がする)
それなのに戦いながらフローラは、不満げな顔でこちらに走ってきた。そのまま、私の後ろにいた幻獣を回し蹴り一発で倒す。
「なんで私だけ補助がかからないんですか!不公平ですぅ!!」
「だって、あなたがかけている身体強化は聖女の魔法だもの。重ね掛けできないわ」
「うう。ずるいです。ずるいです」
そう言いながら、再びフローラはライアス様の横に並び立つために走り去っていった。以前みたいに、ただやみくもに突っ込むのでなくライアス様のフォローもしている。それでもまだまだ無鉄砲な動きをするフローラをライアス様が的確にフォローしている。
ライアス様とフローラは本当にいいコンビだ。恋愛面ではどうかわからないけれど。
それにしても、彼女が自分にかけている身体強化は私のものよりも精度が高そうだ。今度、私もロイド様に教えを請わねばなるまい。師匠と呼べば教えてもらえるだろうか。
でも、最近騎士団の遠征に参加してなかったから、他人の身体強化をするのは意外に難しい。これは、しっかり訓練しなくては。きっと、まだまだ向上の余地がある。
そして、聖女には聖女の補助が重ね掛けできないのに、聖騎士には重ね掛け出来る事実。聖騎士も、光魔法で身体強化してますよね?誰よりも軽やかな動きで、私に近づいた幻獣を倒していくディオ様。
「やっぱりずるいです、ディオ様」
誰にも聞こえない小さな声で、私は不満を口にした。
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