聖女と神殿
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聖女覚醒イベントは神殿が舞台だ。そこには、もちろん攻略対象者のあの方がいる。私も聖女になりたてのとき、お世話になった。私が世界樹の塔にこもることを私のかわりに許可申請してくれたのもあの方だ。
「お久しぶりです。ロイド様」
「久しぶりですね。聖女リアナ」
「聖女って、やめてくださいよ。なんだかロイド様にそういわれるの恥ずかしいです」
ロイド様は神殿で神官をしている。しかし、最初は攻略対象者ではないのだ。ハッピーエンドを迎えると解放される二周目以降のルートでロイド様が攻略できるようになる。
「ロイド様、私……聖女覚醒の儀式を受けることにします」
「え?アレをですか?!……ところで、聖女フローラがあなたの背後から好戦的な瞳をこちらに向けておられるのはなぜなのでしょう」
「え?」
振り返るとなぜかフローラが、ロイド様をにらんでいる。あれあれ、いつも誰にでもフレンドリーなヒロイン体質のフローラ。そんな敵意むき出しの態度珍しいんじゃない?
「きょ……」
「きょ?」
「強者の香りがします。しかも、私と同系列…………ご免!!」
いきなり光のオーラをまとったフローラが、ロイド様に攻撃を仕掛ける。
(ちょ……何やってるのフローラ?!)
「ふーん。たしかに私と同系列の力ですね。あなた、回復と仲間の強化メインじゃなかったですか?でも、細部のコントロールが甘く粗雑ですね」
空気がゆらいだ気がした。ロイド様はほとんど動いてないのに、フローラが地に伏している。え?こんなに強かったっけロイド様。ディオ様くらい強いんじゃないの?
「でも、いきなり殴りかかるのはいただけませんよ。聖女としての自覚を持ちなさいフローラ」
「――――どうかご無礼をお許しください。そして、私を弟子にしてください」
なぜか攻略対象者に土下座するヒロイン。え?なにこの構図。需要あるの?!
「……聖女は人々を守る存在。なぜそれほどまでに力にこだわるのですか」
「大切な人たちを……守りたいからです。今度こそすべてを」
「あなたも記憶があるのですか……」
(今、ロイド様はなんて言ったの……)
「記憶って……どういう意味ですか」
「記憶は記憶ですよ。リアナ……あなたは例外のようですが」
意味深に微笑むロイド様。そういえば、私が聖女として神殿に行ったときに唯一ひどく驚いた顔をしていたロイド様。つまりそれは……。
「良いですよ。フローラ?私でよかったらいくらでもあなたを強くしてあげる」
「ほ……本当ですか?」
「本当の意味で強くなりなさい。今回は今までと違うみたいだから。ディオがいて、聖女が二人になっている。……ねえディオ」
遠くにディオ様のお姿が現れる。あれ?ここにいたんですか。なんだかとても久しぶりな気がします。本音言うと寂しかったです。……言えないけど。
「リアナ……どうしてここに」
「ディオ?ここに聖女様が来るのは当たり前じゃないか。神殿なのだから」
「でも!……ここには一度しか来たことが無かったのに」
そう、避けていたのだ。攻略対象者もいるし、聖女の儀式で一回来ただけなのだ。もし、ここにディオ様が常駐していることを知っていたらもっと来たかったのに。まあ、引きこもってたからやっぱり無理か。
そして近くに駆け寄るとなぜかディオ様が満身創痍だ。なぜ、そんなにも傷だらけなんですか。頬からも血が流れてますけど。そんな姿になったディオ様、遠征でも見たことないのですが?
(あれ……ディオ様は聖騎士。まさかあそこに入る条件を達成しているの?)
二周目以降の最終決戦前になると解放される隠しステージ。聖女がメンバーに入っているのが必須だと思っていたけど、ゲーム上には存在しなかった聖騎士も入れるのだとすれば。
ディオ様の……強さの秘密。レベルのカンスト……?
「大丈夫。すぐ治せるから」
ディオ様は私に心配をかけまいとしたのか、自分に回復魔法をかけようとする。
「まって!!」
「リアナ……?」
「はっきり言って、その魔力の残量で回復魔法なんて無茶ですよ!ぎりぎりまであそこにいたんでしょ?!」
「なんで……ここに来ていなかったのに知ってるんだ」
ディオ様の目が真剣な光を帯びる。それを少しだけスルーして私はディオ様に回復魔法をかけた。頬の傷もきれいに消えてほっとする。
「知ってますよ。ディオ様……記憶があるんですから」
命を懸けないといけないほど高難易度のトレーニングルーム。でも、そこで得られる力もまたそれに見合っている。ゲームで攻略に力を入れた結果レベルが足らずに籠ったはいいが、過酷なミニゲームに何度泣かされたか。
ディオ様は、ずっとここで一人で。いや?聖女になってからじゃないと入れない上に、パーティー推奨ですよ?ここ、現実だから死んじゃったらやり直し効かないんです。おかしいですよねソロって?!
しかも、なぜかディオ様がすこし怒っている。いつも温厚なディオ様がそんな顔するの珍しすぎる。
「リアナも、あそこに入ろうとしていたんですか」
「……聖女覚醒の魔法を手に入れるためには必須なので」
「そうですか……じゃあ、今から一緒に行きましょう」
「え?ディオ様、魔力残量ないじゃないですか?」
今出てきたところですよね。どう見ても、満身創痍でしたよね?
「大丈夫、最後の部屋にさえ入らなければ十分持ちますよ。魔力なんてなくても」
え?聖騎士が魔力ないって、普通の騎士ですよね?普通は戦力大激減ですよ……?
「あの……私、フローラと」
しかし、フローラはロイド様の手を無理やり引っ張りながら「修行!!」と向こうへ行ってしまっている。苦笑いのロイド様がこちらに小さく手を振っている。
「何か言いましたか?ダメじゃないですか、一人で危ないことをしては」
「あ……あなたがそれ言いますか!?」
ディオ様だって、ずっとここにソロで籠っていたんですよね!命がけじゃないですか。というより無謀すぎますよ?!
「俺の愛しいリアナは悪い子だね……」
うわあああ!!顎クイされた!少しだけ悪い顔したディオ様に!!その上また愛しいって枕詞ついてる!何なのこの状況……。
それだけで、私のMP、メンタルポイントはゼロだ。
「あの、精神的に無理なのでお茶してから入りましょう?」
「まあ、万が一リアナを守れなかったら困るから魔力回復するまでそうしようか?」
再び天使の笑顔にもどるディオ様。18歳になる前に心臓が止まってしまうかと思ったわ。
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