聖女、王太子に完敗する。そして卒業式
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三学期、私の首席はライアス様に奪われてしまった。剣技で完敗、座学でも僅差で負けた。
うーん、さすがメイン攻略者。どちらかと言うと天才肌のくせにものすごく努力家だ。努力だけの人間が勝ち続けるのは難しい。
フローラにも実技で負けた。試験で大差で勝ったからなんとか二位は死守した。
こうなったら絶対絶対、ミルフェルト様に会いたいから、聖女の力で王立図書館に入館する資格をもぎ取ってみせる。
いや、それよりもやっぱり、世界樹の塔に扉を常設してもらうべきか。
(それでも、来年度は絶対に首位に返り咲く。私は、あの兄の妹だから出来るはずだ。)
そう私は決意した。
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そして、文化祭から半年が過ぎる。
今日は私の誕生日で、学園の卒業式だ。兄とディオ様は卒業してしまう。
ディオ様と会う機会は、減ってしまうのだろうか。兄とは家族だからいつでも会えるけど、これからはきっと仕事も忙しいだろう。
やっぱり、今までみたいには会えないのかな。
(置いていかれるみたいで寂しいかも)
そんなことを思いながら、世界樹の塔から出ると、兄とディオ様が、なぜか揃って迎えに来ていた。
「二人ともどうしたんですか?」
兄とディオ様の制服を見るのも今日が最後。え?なに、すごい貴重じゃないの?卒業式の兄とディオ様のダブル制服姿。
「一緒に登校するのも最後だからな。二人で迎えに来てみた。俺だけ行こうとしたのに、ディオがどうしてもって言うからさ」
「兄妹仲良いのは良いことだけど、今日だけは譲れない。一緒に行こう、リアナ」
そう言って二人は何故か左右から手を繋いできた。
(子ども扱いされてない?ちゃんと歩けますよ?)
しかも、この状態で登校するの?!すでに、学園公認の兄との手繋ぎ登校……のさらに上をいくと?!
「あの。流石にこれは……」
「俺は譲らないぞ」
「……ダメ、かな?」
兄の手は振り解けないほど力強いし、ディオ様の耳にはぺたんと垂れた犬耳の幻が見える。
(――――詰んだ。いや、もう今更目立ってもそう変わらない。きっとそうに違いない)
理想の引きこもり生活から一転。目まぐるしい一年間だった。
大丈夫、兄がやらかしたあんなことやこんなことと比べたら、大したことない。いっそ楽しんでしまえばいい……。
ん?本当に?
今日は、親達の参加とあるんだよ?父とかディオ様のお父様やお母様も来るんだよね?
「あの……やっぱり」
「どうしても、この特別な日にリアナと登校したい」
「リアナとの特別な日の思い出にさせて?」
(――――ダメだなんて私にはとても!!いや、断れる人間いるのかなこれ?)
今日は、特別な日だから。これは、人をダメにしてしまう魔法の言葉だ。
「――わかりました。でも、学園の手前までですよ」
二人と手を繋いで歩く。たぶん、それも今日が最後だろう。そう私は思った。
実際は、何かにつけて手を繋ぎたがる二人と、この後も繋ぐ機会はあるのだが、今の私はまだ知らない。
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教室に着くとレイド先生が、長い前髪をかき上げながら無駄にフェロモンを撒き散らして言った。
「今日の主役のような二人を両手にって、相変わらずだなリアナは」
「レイド先生。揶揄わないでください……」
予想以上に沢山の人たちとすれ違い、二度見どころか三度見された時間を、私は決して忘れない。
そして、仲良く会話しながら爽やかに去っていった二人のうしろ姿も。頑張った分、いいものを見せてもらった。
卒業生代表挨拶は、三学期も全教科満点と、実技二位を決めてディオ様との同点首席を死守した兄。私もあなたに続きますから。
そんな兄は猛烈にカッコいいが、挨拶がやや長かったので、減点しておこう。このままじゃ、私の中で兄だけが完璧にカッコいい人になってしまう。
在校生代表はランドルフ先輩。もちろんランドルフ先輩は、来年度の生徒会長だ。
卒業の花束贈呈は、何故か私が選ばれた。『春君』のヒロインのフローラのお仕事ではないのか。……もっと頑張って欲しい。フローラと目があったら、なぜかサムズアップされた。いや、あなたのお仕事なんだからね?
「卒業生の皆様……ご卒業おめでとうございます」
それでも、兄に花束を渡すため壇上に上がると鼻がツーンとしてしまう。私は兄とずっと学園に登校できるのだと、勘違いしていたのかもしれない。
確実に時間は過ぎていくのね。
「ありがとう、リアナ」
兄の笑顔が眩しい。兄には悲しい顔は似合わない。兄のことは、私が守るから。兄、大好きだ。
そう密かに決意していたのに。
「――っ――――?!」
全校生徒と、父兄の皆様の前で、なぜか兄は堂々と抱きついてきた。
「あわわっお兄様っ!?」
「俺の大事なリアナ。お前のこと、絶対卒業させるから。絶対に見つけてみせるから」
その声はたぶん私にしか聞こえないほど微かで。
周りには感極まってしまったシスコン兄が、妹に抱きついている姿に見えているだろう。兄の今後にとって、それくらいのダメージで済むといいけど。兄の将来が心配すぎる。
(――――それでも)
恥ずかしいくらいなんなのだ。私のために命をかけてくれた兄。まだ、諦めずに私のことを救おうとしてくれる人……。心から愛しい私の……。心から愛しい私の……?
「――――大好きなお兄様。お兄様が、生きて卒業してくれてうれしいです」
「リアナ……俺は」
「お願い。卒業して極秘資料管理官になっても、呪いを解くために危ない橋渡るなんてやめて下さいね?」
兄が考えていることが分かってしまう。なんでどこだって引く手数多な兄が、進路を極秘資料を扱う部署にしたかなんて。
内緒話のように小声のままの兄が言う。
「リアナ……ごめん。それだけは、約束できないよ」
「お兄様……」
そして私たちは、引き離された。
「はい。仲がいいのは分かったが、そろそろ終わりにしような?」
レイド先生によって、私は現実に引き戻された。やって……しまった。卒業式の長い長い抱擁。しかも妹と。兄の行く末を私が塞いでどうするんだ。
兄は卒業式も平常運転です。
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