兄と現役学生騎士の裏取引
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猛烈に忙しく過ごして、秋も深まる文化祭。フローラと手合わせをすると時々勝てるようになってきた。兄との特訓のおかげだろう。
「ディルフィール、話したいことがある。一緒に帰らないか」
珍しく兄もディオ様も忙しいということで一人帰ろうとしたら、ランドルフ先輩に声をかけられた。
「ランドルフ先輩、一人なんて珍しいですね?」
「うん?フリードといつも一緒というわけじゃないから。何だか最近誤解している人が多いけど」
最近は取り巻きの女子たちと過ごさずに兄といることが多いともっぱら噂のランドルフ先輩。それってすごく心ときめく。
兄が「もうすぐランドルフに抜かれそうだ。くそ、才能の差ってあるよな」と嘆いていた。何だか青春していて良いですよね!
それから兄は、エリート中のエリートしか勤められないという極秘資料を管轄する部署に配属が内定した。その上に副団長の強い意向で騎士団にも所属することになったそうだ。
何でもこなす努力家で自慢の兄ですが、過労死とか、それだけは嫌ですよ?妹は兄の健康管理に力を入れると決めています。
そして、文官がそれだけ強ければ大量のお釣りが来ると思うのに、兄の向上心が留まることを知らない。今日もディオ様に教えを乞うていた。
今のところ私の兄への評価は鰻登りでとどまることを知らない。我が兄ながらカッコ良すぎる。
「ところで、王家の呪いについてなんだけど……」
「ランドルフ先輩……それ」
「うん。うちの宝物庫に、一つあったから」
それは赤く怪しい輝きを放つ、竜の血石だった。兄が噛み砕いたやつ!震える!小指が痛い気がするトラウマだ。
ランドルフ先輩は、当たり前のようにそれを私の手に握らせる。
調べた結果、竜の血石は倒したドラゴンからごく稀に発見される超高価な品物だ。錬金術師などは素材として喉から手が出るほど欲しいらしい。……ゲーム内では調合に使えば良かったのだろうか。
「あの、ランドルフ先輩。これをどうしろと」
「うーん。まあ、ディルフィールの呪い解除に使えるかもしれないだろ?やるよ」
「あの、お返しできるものを持ち合わせていないのですが……?」
「そうだな……じゃ、文化祭で俺と一緒に」
その時、ランドルフ先輩を羽交締めする影が。
「ははっ。良いもの持っているな?では、ここにある人魚の涙と交換しよう。……なあ?」
「くっ、フリードか!」
兄の息が上がっている。もしかして忙しいって、それ取りに実家に帰っていたんですか?
18歳を越えたとはいえ、前科のある兄にはもうこの石を渡したくないです。私は震える手で竜の血石を握りしめた。何か、何かないかしら。
(あ、あれがあった!)
「世界樹の雫と交換です!」
「「は?!」」
兄とランドルフ先輩が凄い勢いで私の方を見た。良し、掴みは良好だ。
「あの、世界樹の隠された扉を開くとかいう伝説のやつか?!」
「ディルフィール!流石に竜の血石とはいえ、それとは価値が違いすぎるぞ?!」
7歳から五年間ほど祈り続け、聖女に覚醒した時に世界樹から降ってきたのだ。ゲームと同じ見た目の間違いない世界樹の雫。
「ほら、これですよ」
緑色の見た目に加え七色にキラキラ輝く宝石。お守りとしてペンダントにして制服の中にしまいつつ首から下げているのだ。
「お、おい!こんなところで出すな!」
なんだか兄が焦っている。まあ、ゲーム内でもひたすら祈るという苦行の末に稀に手に入る最高レアの非売品でしたからね。
「それが実際にあるという情報だけでも、竜の血石に値する……竜の血石あげるから。良い子だからもうそれ人に見せたりしちゃダメだぞ?」
なんだかランドルフ先輩が、ペンダントを私の首元に押し込みつつ子どもに言い聞かせるみたいになってる。
え、そんなやばい代物だったのコレ……。そして、ランドルフ先輩いい人すぎないか。
「あー、すまないランドルフ。騎士団長になっても墓までその秘密持って行ってくれ。代わりにとっておきの情報をお前が必要な時に一つ提供すると約束しよう」
「おお!それはありがたいが。首が飛ばないか?極秘資料管理官殿?」
「お前は口を割らないから大丈夫だ」
うわー。私のせいで起こった、騎士団長と極秘資料管理官の裏取引の現場を見てしまいました。私だけが得した事に気づいているのでしょうかこの方達は。
「あの……」
「「もう、この事に触れたらダメだぞ?」」
兄とランドルフ先輩が同時に同じこと言った。仲が良いよね本当に。そしてやはり子ども扱いされているような気がする。
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