聖騎士対兄
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二年生のトーナメントは、ランドルフ先輩が順当に優勝した。やはり現役学生騎士。圧倒的な強さだった。
(まあ、想定の範囲内だわ。順当勝ちってやつよね)
「素晴らしい試合だった。俺の試合も見てくれた?」
「ランドルフ・リーフディア侯爵令息殿?馴れ馴れしくうちの妹に近づかないでもらえるか?」
「ふふ。また来るよ。ディルフィール?」
なぜか学年優勝したあと、ランドルフ先輩が再び私に挨拶しにきたが、敵意剥き出しの兄に追い払われていた。しかしランドルフ先輩、メンタル強い。
「お兄様。誰でも敵意剥き出しは感心しませんわ」
「うっ。すまない」
「でも、やっぱりお兄様のこと一番応援します。頑張ってくださいね」
「……うれしいよ」
でも、妹以外に一番応援してくれる人を探さないと、ディルフィール公爵家存続の危機ですよ。私は兄が心配です。
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それから、兄は強かった。こんなに強い人だったなんて、予想以上で驚いてしまう。この間の騎士団総当たり訓練の時とは全く動きが違う。
(……この短期間にどれだけ、努力したんだろう)
でも、確か兄は剣よりも風魔法が得意なはずなのに、なんで使わないのか、違和感を感じる。
(だって、その実力なら風魔法も使えば、そんなふうに怪我しなくても済むでしょう?)
そしてディオ様は、圧倒的に強かった。たぶん誰も敵わない。兄だってきっと敵わない。……私はそう思ってしまった。
ディオ様にも勝って欲しいのに、こんなに複雑な気分で応援するなんて思わなかった。
決勝戦まで勝ち残ったのはディオ様と兄だった。
「フリード……どうしたらこの短期間で、そこまで強くなれるんだ?」
「努力の二文字だけだ。俺は天才ではないからな」
それでも兄の目は全く諦めていない人間のそれだった。三年生でディオ様とまともに打ち合えるのも兄だけだった。
それでも段々と兄は、闘技場の端へと追いやられていく。
「お兄様!」
思わず私が叫んだ瞬間、兄の口が弧を描いた。
「――――くっ?!」
闘技場のディオ様の足元にいくつもの旋風。それでもディオ様は、完全に姿勢を崩すことはなく。
「フリード、まだ甘い!」
ディオ様が兄に斬りかかる。これで終わりだと誰もが思った。
――――ギインッ
模擬刀が、宙を舞う。……しかし、それはディオ様のものだった。
ディオ様が天高く舞う模擬刀を見上げてつぶやく。
「はぁ……自分に直接風魔法を纏わせるとか、どんな無茶するんだフリード。初見殺しだよ」
「俺のっ……勝ちだ」
傷だらけの兄が地面に倒れ込む。だが、先に剣を手放して判定負けしたのはディオ様だ。
「お兄様……お兄様っ!」
無茶ばかりする、目が離せない兄のそばに走り寄る。足がもつれる。
「ははっ。見たか?ディオに勝ったぞ?まあ、リアナには学年優勝を捧げるからこれで許してくれ?」
回復魔法を使おうとして、兄に腕を掴まれる。
「リアナの足は引っ張りたくない。魔力を無駄に使うな。俺はこれで棄権するから、あとで……な?」
「お兄様は、本当に自慢のお兄様です!!カッコ良すぎませんか」
「惚れるか?」
こんな時まで兄は妹に何を言ってるのか。……言う相手を間違えてますよ、兄?でも、今日の兄、カッコ良すぎです。
「こんなの普通にどのご令嬢でも惚れるでしょう?」
「…………そうか」
兄が担架で運ばれても、私はあまりの兄の男前さに心揺さぶられたままだった。私ももっと強くなろう。努力がまだまだ足りない。
本戦は、全員参加の乱戦形式だ。兄の分まで戦い抜くと私は決意を固めた。
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