武闘会
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晴天を超えて、真夏のように初夏の太陽がギラギラ輝いている。
夏の制服は、白が基調になっていて可愛い。
引きこもり生活の中でセーラー服風な制服に少し憧れていたから、自分も着ることができてとても嬉しい。公爵家自室の大きな鏡の前でくるりと回ってみる。
今日は、学園の武闘会。戦う時の服装は自由。私は女性用の騎士服を着て出場することにした。
邪な理由ではない。そう、公爵家令嬢は動きやすい服をあまり持っていない。それだけなのだ。以前、ディオ様が「騎士服が可愛い」と言ってたからとか断じてない。
「これが終わったら期末テストだわ」
おそらく、フローラはSクラスの真ん中より上までいく。私も一度、三年までの学習は終えているが、満点を取るつもりで入念に復習した。
ライアス様は、すでに公務をされているのにあれだけの能力。……努力家よね。
たぶんライアス様は完璧な天才ではない。ゲーム内でも、彼の努力が描かれていた。
ディオ様は、たぶん天才だ。しかも努力する方の。そうでなければ、あのすべてのパラメーターをカンストしたかのような能力値、説明がつかない。
(兄はね。完全に努力の人だわ)
もちろん才能はあるのだろうが、実家に泊まることが増えて、兄がどれだけ努力しているのかを目にする機会が増えた。
そんな場面を見られるのは、兄としては嫌なようだが。
部屋を出て、廊下から庭を眺めると、兄が素振りをしている姿が見えた。今日は私も緊張と武闘会が楽しみすぎたせいで早起きしてしまったのに。
(――――兄はちゃんと寝てるんだろうか)
あれは努力というレベルを超えているかもしれない。何が兄をあんなにも駆り立てるのだろうか。
振り返った兄と目があった。兄は少し気まずそうに笑った後、手を振ってくれた。
屋敷に戻ってきた兄に、タオルを渡す。流れ落ちる汗を拭きながら、兄が私を見つめてくる。最近なぜか兄が見つめてくることが多い気がする。
「おはようリアナ。夏服、似合うな?」
「あ、ありがとうお兄様」
妹のことをナチュラルに褒めるイケメンの兄。こんな兄が欲しかった。すごい、この人私の兄だったわ。
「今日は、優勝してみせる」
兄は、就職先を騎士団や近衛隊に変える気なのだろうか。文官希望の兄が優勝なんてしたら、最強の宰相が未来に誕生してしまう。
「お兄様、あまり無理なさらないで」
「ありがとう。でも、もうあまり時間がないから」
「時間がない?」
「いや、今年で最後だからな」
まあ、たしかに兄は三年生だから、ディオ様に勝とうとするなら今年度しかないですけどね?
不思議そうに首を傾げる私から、兄は少しだけ目を背けた。
「……湯を浴びてから行く。先に行ってていいよ?」
そんなことを兄が言うのも珍しい。いつも一緒に行こうとしつこいくらいなのに。
「待ってますよ?」
「……そっか。じゃあ、待ってて」
今は兄を一人にしたくない。そんな気持ちが不思議だった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
フローラ「お弁当も作ったし、今日は何人と戦えるかな♪」
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