兄の秘密主義
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フローラが帰った後も、私は勉強に精を出しすぎて、机に突っ伏したまま眠ってしまった。
(負けず嫌いもほどほどにした方が良いわ)
顔についた跡を擦ると、制服に着替える。
それから長い世界樹の塔の階段を、身体強化を使って一足跳びに降りていく。基礎体力は大事だが、もう身体強化は体の一部のように染み付いている。
扉を出ると、まだ早い時間にもかかわらず兄がそこに立っていた。
「お兄様、ずいぶん早いですね」
「……今日は、一緒に学園に行かないか」
断る理由は全くない。学生服に見を包んだ兄は、今日も爽やかだ。そういえば、兄に聞かないといけないことがあるんだった。
でも、あの時の兄の様子から聞いてはいけないと言う警鐘を私の何かがガンガンと鳴らしている。
「……何か聞きたいことある?」
兄も何故か少し緊張した様子だ。私は意を決して聞いてみることに決める。しかし、兄が口を開くのが先だった。
「リアナが聞きたいのは、俺が王太子の呪いの器から除外された理由かな?」
その通りだ。兄は私の考えなどいつもお見通しな気がする。それはやはり、兄妹だからなのだろうか。それともまさか、顔に書いてあるとか!!
ペタペタ顔を触っていると、兄が付け加える。
「ふっ。顔には書いてないよ」
いや、やっぱり心を読まれてる?!
「心も読んでない」
目の前の兄は笑っているのに、いつも楽しそうな兄がどこか辛そうに見えて。
「お兄様……なぜですか」
兄のそんな笑顔、なんだか嫌です。何考えているか、分かりません。
「……もし、本当のこと言ったらリアナはもっと俺のこと見てくれるのかな?」
兄のことを、もっとよく見る?なんでそんなこと言い出すんですか。
「お兄様がそうして欲しいと言うなら、もっとよく見ますよ」
「たぶん、リアナは困ってしまうよ」
兄のことで困ることなど今までなかった。優しい頼もしい、大好きな兄。
「大好きなお兄様のことで困るなんて、考えられないです」
「そっか……そうだよな?」
「お兄様?」
兄の笑顔がいつもと何か違う。それは、夜会でよく見る兄の笑顔と同じに見えた。
「大丈夫。ただ、二代続けてディルフィール公爵家から器を差し出すのを、陛下も父も良しとしなかった。それだけの話だから」
たぶん、兄は嘘を言っていない。でも、全部本当なわけでもない。
(……?なんだろう、兄の顔を見ていると胸が締め付けられる)
それでも、この時兄を問い詰める勇気が私にはなかった。でも、もしかしたら聞かなかったことを後悔する時が来るかもと心のどこかで感じていた。
「さ、行こう?せっかく早く起きたのに遅刻してしまうよ」
今日も兄は、登校の間ずっと、手を繋いだまま離してくれなかった。ただ、その力が少しだけいつもより強くて、私の手はほんの少しだけ痛かった。
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