乙女ゲームに存在しないルート
「そろそろ帰ります。見苦しいところを見せました」
「ディオ様……」
ごめんなさい。非常に申し訳ないことに、私としては見苦しいどころかそんなディオ様の一面、アリだと思いました。永遠に記憶に留めたいレベルです。
「最後に一つだけ」
「はい」
「俺があなたを見誤るはずありません。たとえ姿が同じでも。でも、さっき七色の光の中で見たのはたしかにリアナ本人でした」
「……え?」
たしかに私が見た場面も、乙女ゲームのようでその中にはないシーンだった。乙女ゲーム以外にもまだ、私の知らないリアナがいる?
(そういえば、あの画像の中の金髪の少女。ドリル巻き髪じゃなかった……?)
「あんな風に現実を突きつけられるとは思わなくて動揺してしまいました。……リアナ、絶対にあなたを助けてみせるから」
「ディオ様も、一緒にですか」
ディオ様が息を呑んだのがわかった。きっと、この人は自分のことを度外視して、私を助けようとしているのだろう。
「そうでなければ、私は嫌です」
もし、そうなったら私は多分また。私の中の黒い蔦が、ザワザワと蠢く。何かを呼び覚ますように。
(また?また、何になるんだっけ)
「…………約束します。あなたと共にあると」
そこまで言われると、逆に私が強要したかのような気がしてきた。
まあ、とにかく生きていてくれれば良い。それくらいのニュアンスは、真面目なディオ様には伝わりにくいのかもしれない。
「リアナ様!ここわからないのですが!」
相変わらず空気を読まないピンクブロンドの髪の少女。でも、彼女はいつも冷え切った空気を一瞬にして春の日差しの中のようにしてしまう。
(もしかして、わざとかしら?)
ニコニコ。フローラのどう考えても邪気のない何も考えてなさそうな笑顔。
(いいえ、広義でのヒロイン品質ってやつね)
「えっ?もうここまで進んだの?」
「このマジカル理論の変身の法則部分が分からなくて」
これはこれは、フローラはまるで乾いたスポンジのように知識を吸収していくではないか!
ディオ様ですら、驚いた表情をしている。このままでは、努力だけの凡人な私は、努力する天才にすぐ追い抜かされそうだ。
「ディオ様、ではまた明日」
「ええ、また……明日」
フローラに向き合う。この一瞬で、どれだけの知識を吸収したのか。この世界樹の塔の最上階が、知識に関するトレーニングルームという事実を除いても。
これは、いつか座学ですら負けるのが間違いない。それでもやっぱり、負けたくはない!
もっと勉学に時間を取ろう。そう心に決めて、ディオ様が帰っていった後、私もフローラの隣で本気で勉強を始めた。
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