世界樹の塔で二人
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世界樹の塔は、聖女と聖騎士しか入れない。今までずっと、私とディオ様しか入ることができなかった。今ならフローラも入れるが、トレーニングルームを教えれば、最上階まで来ない気がする。
「ディオ様。もう、大丈夫ですよ」
「――――っ、リアナにはかっこ悪いところばかり見せている気がする」
最上階まで、ディオ様の手を引いて駆け上がった。
「え?ディオ様がカッコよくなかったことなんて一度もないですよ」
「本当に……リアナは」
少しだけディオ様が笑ってくれる。
「……何を見ましたか」
「――――っ」
「……私が死ぬ場面ですか」
ディオ様が、バッと顔を上げる。それってもう答えているようなものだよね。
ディオ様は、『春君』のラストシーンを見たのではないだろうか。悪役令嬢リアナの最後を。それは、予感というより確信だった。
「でも、私はまだ生きてますよ?」
「あれは、リアナだった」
「私と同じ姿をした、違う誰かです」
思い出していないことが、まだたくさんあるのかもしれないけれど、ゲームの中の悪役令嬢リアナが私なのかと言われると違う気がする。
それに、悪役令嬢としての運命のままに18歳で最後を迎えるのだとしても。今は、まだたしかに生きている。
「いっそ……俺が」
それは言わないで欲しい。ディオ様の唇にそっと当てた人差し指で気持ちを伝えてみる。
「私、今とても幸せです。みんな優しくて、大切な人に囲まれて」
ディオ様に責任を感じるなというのは無理なのだろう。それでも、私は今、幸せを分けてあげられそうなほど幸せだ。
まあ、それでも18歳で破滅するのは全力で避けたい。兄やディオ様、それにフローラもライアス様も、父もたぶん号泣だ。号泣で、すめばいいな。
「ディオ様、明日も明後日も会いましょう」
「――――いつまで」
「ディオ様の望むだけいつまでもです」
これは嘘なのかもしれない。それでもそう言わずにはいられない。しかし、静かな二人だけの空間はそこまでだった。
――――ガチャ
「おおお!ここがミルフェルト様の言ってた世界樹の塔ですかあ!」
「えっフローラ?!」
何故ここにその扉が?えっ、本棚あると思ってたけど、まさかこの最上階って図書室扱いなの?!
「……二人とも少し元気が出たみたいですね?じゃ、トレーニングルームに行きましょう。案内お願いします」
ニコニコしているフローラ。何故かミルフェルト様が瞳を三日月に細めて笑っているのを感じた。やっぱり、少し失礼だったのかもしれない。
「フローラは、図書室で勉強した方が良いのでは?」
「え……ひどいです。なんでそんなことを言うんですか?」
伏し目がちな瞳と震える声。なんだかフローラの見た目とその台詞だけだと、悪役令嬢がヒロインをいじめているようだ。
えっ、まさかあのゲームってこういう場面だけ繋ぎ合わせてるの?!と疑いたくなるレベルだ。
でも、現状座学は壊滅的だから、フローラが来学期もSクラス残留のためには学力を上げねばならない。
「次のテストでSクラス合格点を取ったら、トレーニングルームを開放するわ」
「て、手合わせは?」
潤んだ大きなタレ目がちの瞳で、フローラが見上げてくる。この姿だけスチルで見た人がいて、彼女が脳筋だなんて十中八九思うまい。
「だって私、フローラと一緒のクラスでいたいもの。それにSクラスじゃないと、強い人と授業で手合わせできないのよ?」
「むむ!死ぬ気で頑張ります!」
俄然やる気になって本を読み始めるフローラ。たぶん、彼女のスペックなら知性もバンバン上がるのだろう。
ディオ様の方を見ると、苦笑しているのが見えた。その姿はすっかりいつものディオ様だった。
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