乙女ゲームなのに
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兄とディオ様が無言のまま剣を構えて向き合っている。
(やめて!私のために争わないで!)
……すみません。ほんの冗談ですので許していただきたい。
今日は、騎士団の訓練に参加させていただいている。入学試験で特別審査員だった副団長さんに相談してみたら、「是非!ご友人たちもお連れください」と快く歓迎していただけた。
えっ、副団長さんてば、ダンディでかっこいい上にいい人だ。お言葉に甘えて、みんなで参加してみることにした。あとからライアス様とフローラも来るそうだ。
実は今まで、聖女に遠征の依頼がない限り、騎士団との交流は極力控えてきた。
その理由は、もちろん私の破滅ルート回避のためだ。攻略対象には現役騎士の学生がいるのだ。
でも、すでに私は18歳で死んじゃう呪いを受けているから、避ける理由はもうなくなってしまった。
ディオ様が訓練している姿が、近くで見られるかもしれない!なんて浮かれているわけじゃないから。断じてないから。
そんなことを思っていたら、ディオ様ご本人が登場した。聖騎士の白い軍服、眩しくて尊くて目が潰れそう。
「リアナ!この間もフリードと来てたって聞いてたから、待ってたんだよ。それにしても騎士服着てるリアナは可愛い」
今日もディオ様のお言葉は、ものすごく甘い。ベルクール公爵家は女の人を褒めるのが家訓なのだろうか?
でも、顔も良くて性格も良く頭も良い、しかも強い。むしろ悪いところを見つけるのが難しいディオ様がそんなに褒めたら、世界中の女子が惚れてしまって大変なことにならないのだろうか?
小首を傾げていると、何かを察したのかディオ様が苦笑気味に言った。
「リアナ、もう少しだけ素直に受け取って欲しいな」
素直に……?えーと、女性ものの騎士服が可愛いって話だっけ?たしかにデザイン性が高いよね。
「たしかに騎士服は可愛いので、今度の遠征で着てみたいです」
そんなことを言うと、兄に肩を叩かれた。なんだかとても残念そうな顔をして首を振っている。
「ディオを応援したいわけじゃないが、少し気の毒が過ぎる」
「えっ?何か失礼なことしてしまいましたか?!」
今度は兄とディオ様が見つめ合う。仕方がないなって笑い合う二人。二人だけの空間って感じですね!本当に仲が良くてとてもいいと思います。
「……ところでディオ。少し時間あるか?」
なぜか兄が模擬剣を借りてきて言う。
「ああ、たまには本気で体を動かしたいな」
ディオ様の手にもなぜか模擬剣が。
「座学では負けてないから、あとは剣技のレベルを上げてお前を追い抜く」
「座学も次の学期は負けないつもりだよ?」
そして今に至る。なぜ私の周りの人たちは、すぐに戦おうとするのだろうか。乙女ゲームなのに、脳筋の集まりなのだろうか。
たしかに『春君』は、過酷なミニゲームを繰り返し本気でメンバーを鍛えないとラスボスに勝つことができない。
そういえば、騎士団で鍛えるというミニゲームも存在した。ということは、これはゲームのシナリオ通りの展開ということなのだろうか?
よく考えたら、キャラクターのレベル上げは、騎士団にせよトレーニングルームにせよ、戦いを繰り返して強くなっていく。現実では相当体育会系だよね?
でも、このままみんなが強くなればディオ様もいるしラスボス瞬殺なんじゃない?
(あ、ゲーム中のラスボス私だった)
混乱してしまった私は、考えることを放棄して模擬刀を掴み戦いに乱入することにした。もちろん、あとから来たライアス様とフローラも乱闘に参戦した。
リアナ「この先にハッピーエンドがあるのかな」
フローラ「わからないですけど、最強は目指せます!」
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