運命とダンス
会場に入った途端に、一段上にいたライアス陛下と目があった。ライアス陛下が、明らかに瞠目したのが見えた。
会場にざわめきが起こる。
国王陛下が壇上から降りて、私たちの方に大股歩きで近づいてきたから。
「騒ぎになるからいいのに……」
ひとつため息をついたミルフェルト様が、それでも自身の前に跪く国王陛下に対して当たり前のように「そこまでしなくて構わない」と鷹揚に声をかける。
ライアス陛下は、普段はとてもフレンドリーだ。それでも、公私は分けている。こんな場面では、国王としての態度を崩したりしないはずだ。
「ミルフェルト様……」
「ほら、フォリアもデビュタントに参加しておいで?この格好だし、目立ってしまうから流石に一緒にダンスは踊れないけれど」
にっこり笑ったミルフェルト様、いつも以上に感情が読めない。
「私、このままのミルフェルト様でも構いません」
「はぁ。本当にリアナににてるよキミは。でも、ほらギルバートが踊りたそうにしているよ?」
振り返ると、ギルバート殿下がこちらにゆっくりと歩いてくるところだった。
「ほら?」
その時、なぜか父がこちらに近づいてくる。ここにいるはずのない、母の手を引いて。
「来ると思っていましたよ。あなたはフォリアやリアナになんだかんだ言って甘いから」
「――――フリード。キミってほんとお節介だよね」
古龍と対峙したとき、母と出会った途端ミルフェルト様が幼女から大人の男性に戻ったのは、母との契約のせいなのだと聞いた。
次の瞬間、私の目の前にいたのはいつものミルフェルト様だった。ただ、白い正装のタキシードに身を包んでいて、ものすごくかっこいいことだけが違うだけで。
母がにっこりと笑っているのに、目はまったく笑っていない、かなり怒っている時の顔でミルフェルト様の前に立った。
「ここまでおめかしさせて、連れてきたのに、私の娘に恥をかかせる気ですか?ミルフェルト様」
ミルフェルト様が、わかりやすく笑顔のまま固まった。そんなミルフェルト様に、母がさらに続ける。
「素直になったらいけないのですか?私は、フォリアとミルフェルト様なら運命を越えられると思ってます」
「ふっ。これじゃ、いつもと逆だね?リアナ」
「――――いつか、ミルフェルト様、言いましたよね?『転移者って言うやつとこの世界の人間が結ばれて生まれた存在が、転生者と縁を結んだらどうなるかも気になるな』って」
「――――時々、キミには心を覗かれているのではないかと思うよ」
フッと小さく息を吐き出した後、私の前に跪いたミルフェルト様が、私に手を差し伸べた。
「一度だけ、……今宵キミと踊る栄誉をボクに」
「はい」
「まあ、相当昔に踊ったっきりだから期待しないで」
そう言いながらも、ミルフェルト様のリードは完璧で、私は夢のような時間を過ごした。
最後までご覧いただきありがとうございました。第二部完結です。
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