デビュタントの衣装
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私はあまりおしゃれに興味がない。そういっても、公爵家令嬢として侍女たちが勝手に私に似合う装飾品や化粧を施してくれるから、いつも美しく着飾っていなくもない。
でも、今日の私は今までになく気合が入っていた。
「お嬢様、こちらの装飾品はいかがでしょうか?」
侍女が出してきてくれたのは、アイスブルーの薔薇にパールが散らされた繊細な髪飾り。
一応断っておこうと思って「デビュタントには行かないで、禁書庫に引きこもります」と言ったら「羨ましすぎる!」といいながらも、母が用意してくれたものだ。それを聞いていた父は、なぜか仕事でよく見る氷のような微笑をした後にどこかへ消えた。
父と母が用意してくれたドレスは、デビュタントの令嬢たちが着る雪のように白いドレス。私は行かないと言っていたのに、それでも用意してくれたドレスは、公爵家に恥じない豪華で美しい一級品だった。
「一番見てもらいたい人に、このドレスを見てもらえることになって良かったわね」
しばらく「羨ましい!」を繰り返していた子どもみたいな母が、急に真面目な母親の顔になってそんなことを言った。私は全力でその言葉にうなずく。
大好きな人に見てもらえるなら、デビュタントよりもそれは素敵なことに違いない。
完璧に美しくなれたかについては自信がないけれど、今日は、今日だけは私は出来る限り美しくなるために努力した。
母も侍女たちも、目を細めて褒めてくれた。
鏡に映った私は、確かに今までで一番可愛らしいように思えた。
世界樹の塔の最上階に上って、扉をそっと開ける。
こんなに扉を開けるのに緊張したのは、あの聖騎士様がたぶん過去のミルフェルト様のところに連れてきてくれて以来初めてだ。
扉を開けると、白いドレス姿で美しく着飾った、ツインテールの幼女がいた。
その耳には、美しい青い宝石が輝いている。
「――――?!」
ツインテールの幼女が、ミルフェルト様なのはわかっている。でも、何だろうこの敗北感は。
美しいミルフェルト様が、私の近くに歩み寄って、その幼い顔には似合わない妖艶な笑顔を見せた。
「ふふ……。きっと今宵誰よりもキミが美しいに違いない……フォリア」
私の手をそっと持ち上げて、口づけを落とすミルフェルト様。まつ毛までアイスブルーで彩られたミルフェルト様に思わず見とれる。
なんで、その恰好でそんなことを言うんですか?
それに何で、ミルフェルト様までそこまで着飾っているんですか?
「うう。ミルフェルト様こそ美しいです。私なんて完全に負けちゃってます……」
「そんなことないと思うけど?もう少し、自分の魅力に気が付いた方が良いと思うよ」
ミルフェルト様が、私の手を引いて扉を開く。そこは、初めて訪れる図書室だった。どこからか、にぎやかな音楽が聞こえてくる。
「さ、行くよ?」
「え、どこに?」
ミルフェルト様に手を引かれて、私たちは赤い絨毯がひかれた長い廊下を歩きだす。
本当にここはいったいどこなのだろう。
「ご令嬢、本日は招待状のないお方は入ることができません」
「知ってる。でも、口の利き方には気をつけてくれる?」
私たちを引き留めた衛兵が、急にぼんやりとして「失礼いたしました」と返答する。
今、何をしたんですか?ミルフェルト様。
「驚かせてごめんね?でも、もともとボクはこの城のどこだって入ることが認められている。普段はその権利を行使せずにおとなしくしているだけの話だから」
城?城って言いましたか?
では、この会場は。
扉の向こうは、華やかなデビュタントの会場だった。
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