デビュタント当日の引きこもり先候補
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デビュタントの前日、世界樹の塔に引きこもる気満々の私は塔の最上階にいた。先日の出来事以来、どうも気まずくてミルフェルト様に会いに行けていない。でも、あんな不安そうなミルフェルト様をみて、いつまでも避けていることもできない。
私は、勇気を出して世界樹の塔の図書室にある重厚な扉を開ける。
「……遅かったね」
そこには、いつものアイスブルーの髪と瞳をしたミルフェルト様がなぜか少し不機嫌そうに座っていた。
「こっちにおいで?」
「は、はい……」
ミルフェルト様に近づくと、これ見よがしにため息をつかれる。
「本当に、デビュタント引きこもってやり過ごすつもりなの。キミ、そういうのに憧れとかないの?」
「……ないですよ」
「うそつき」
でも、本当にデビュタント自体には憧れはない。ただ、ファーストダンスをミルフェルト様と踊ること一点については憧れがあるけれど。
「はあ。デビュタントの夜に一人っきりで世界樹の塔に閉じこもったりしたら、絶対に泣くでしょ。キミは……」
それは泣くかもしれない。考えただけで切ない。
「――――仕方ないから、明日はここに来てもいい」
「え、本当に?」
「ボクが嘘をつく理由ある?」
それは、まったくないかもしれないけれど、デビュタントの夜に、好きな人と一緒にいられるなんて夢物語なのだろうか。私には一生縁がないと思っていた。
「すべてを持っているくせに、よりによって何でボクなんか……」
「ミルフェルト様のこと放っておけないんです」
「――――キミって本当に変わっているよね?」
変わっているだろうか。確かに、トア様も少しくやしいけどギルバート様も、ランドルフ騎士団長も、さらに父にしても私の周りは完璧でカッコいい男性は多いと思う。
でも、私が好きなのはたった一人だ。
こんなに一緒にいるだけで胸が苦しくなる人はミルフェルト様以外にはいない。絶対に人前で弱みを見せようとはしないミルフェルト様。そして、いつも何かを抱えて、逃げたいのに責任感が強すぎて逃げられないミルフェルト様。
――――好きです。
「ところで一つだけ条件があるんだけど」
「え?」
「フォリアがデビュタントのために用意したドレスが見たいから、明日ここに引きこもるときには、完璧に美しく支度を整えてきて?」
完璧に美しく?私がそこまでなれると、本気で言っているのだろうか。でも、なぜかミルフェルト様の瞳に揶揄うような光は無くて、真摯に私を見つめている。
それでも、せっかく父と母が用意してくれたデビュタントのドレスにそでを通して、しかも大好きな人に見てもらえるのだと思うと、私の心はひどく浮き立った。
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