あなたが一人なら
✳︎ ✳︎ ✳︎
「フォリア、起きて?」
目を覚ますと、目の前に世界で一番麗しくてかっこいいを体現したような黒髪に黒い瞳の男性がいた。
この人が噂の聖騎士様だと、直感的に理解する。
「聖騎士様?」
「そうだね。たしかに俺は聖騎士だ。それにしても、リアナとフリードそっくりだね?」
「あの、私いったい。此処はどこなんですか」
「――――説明している暇は、あまりない。流石に魔力の消費が桁外れだから。フォリアは、ミルフェルト様を助けたい?助けたくない?」
そんな当たり前のことを、失恋したばかりの私に言う聖騎士様。もちろん答えは決まっている。
「助けたいに決まっているじゃないですか」
「じゃあ、行っておいで」
この人は大抵チートなのだと。もしかしたらミルフェルト様と同じくらい強いかもしれないと感じながら、迷わず手を差し伸べる。
だってこの人の声は優しい。間違いなく信じていい人だから。聖騎士様のこと、お父様とミルフェルト様の次くらいにすでに好きだ。
次の瞬間、私はどこか知らない図書室で、見慣れた扉の前に立っていた。
扉に手をかける。
開けるのが怖い。でも、聖騎士様は「ミルフェルト様を助けたい?」と聞いた。それなら私がすることは決まっている。
扉を開けると、以前私を助けてくれた、アイスブルーの髪と瞳をした少女がいた。
いや、そういえばこの方もミルフェルト様?
「――――キミ、誰」
いつものミルフェルト様は、そんな目をしない。絶望に光を失った瞳は、私を見ているようで見ていない。
「招いてないのにこんなところに紛れ込んでくるなんて、命が惜しくないタイプの人間かな?」
「ミルフェルト様」
私のことを全く知らない様子のミルフェルト様に、私は戸惑いを隠せない。でも、それでも会えればそれだけで嬉しい。
会うために命が対価なのだとしても惜しくない。
「そうです。命は惜しくないんです。あなたに会うためなら」
「……何言っているの?本当にキミ、誰?」
ああ、こんなふうにあなたはいつも此処に一人でいたんですね?
「なんで泣くの。キミは本当に意味がわからない」
好きな人が、そんな瞳をしてこんなところに一人でいたら、泣いてしまうと思います。
もっと早く会いたかった。永い永い時を、あなたが過ごしてこんなにも傷つく前に。
「好きです。ミルフェルト様」
「え?こう見えてボク、永い時を生きている大人なんだけど」
時々、距離が近くなりすぎるとみせる本心が見えない表情でミルフェルト様が首を傾げる。
そんなあなたに伝えられる言葉を私は一つしか持っていない。
「知ってます。好きですミルフェルト様」
「――――少し聞いていい?キミのお母さんって」
「――――リアナ・ディルフィール」
あなたが好きな人です。
「……そう。まだ、その人は此処に来たことがない。ところでボクはキミにいつか会えるのかな」
その質問に対する答えも、私は一つしか持っていない。
「あなたに会いたいです。ミルフェルト様」
「そう、じゃあキミを待つよ」
「待っていて下さい。好きですミルフェルト様」
次の瞬間、私は目を覚ます。そしていつのまにか、誰かに抱き抱えられている。
うっすら開いた瞳の端に映るのは、予想通りアイスブルーの色彩だった。
「お久しぶりです。ミルフェルト様」
「――――ごめん、フォリア」
ミルフェルト様が、私をしっかり抱きしめる。
「キミは知らないだろうけど。ずっと会いたかったのは本当なんだ」
「知ってます。私も会えて嬉しいです」
結婚してくれなくても、私を好きになってくれなくても構わない。
私は瞳に光を宿したミルフェルト様が此処にいて、時々嬉しいと楽しいと笑ってくれることに感謝した。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。




