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古龍と魔術師


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 本日は刺繍の授業がある。お母様は「聖女の修行ばかりしていたから、刺繍は苦手」と苦笑いしていた。


 それでもそんなお母様が刺繍した、少し不恰好な我が家の紋章入りのハンカチを、お父様が肌身離さず大事にしているのを私は知っている。


『愛する妻がくれたハンカチを家宝と同じかそれ以上に大切にするのは当然だ』


 刺繍を習うことになった娘に向かってそんなことを言う父はどうかと思うが、夫婦仲が宜しくて何よりだ。


 私が刺繍するのは決まって水色の薔薇と世界樹の紋章。ミルフェルト様の紋章らしい。


 王家ですら、世界樹をあしらった紋章は許されていない。ミルフェルト様と聖女だけが使用を許される。


 あと、聖騎士にも許されるらしいけど、以前いたという聖騎士様にはお会いしたことがない。

 父と母によると生きているらしいけど、とても遠いところにいるらしい。不思議な話だ。


 今日はとても良く出来た。同じ紋章ばかり刺繍する私に初めは色々言っていた講師の先生も「これは素晴らしい」とお墨付きをくれた。


 全ての課題を終わらせて、さらにもうすぐ入る学園でミルフェルト様に学園の図書室から会いにいく権利を手に入れるため私は追加で勉強する。


「ミルフェルト様、受け取ってくれるかな」


 受け取ってくれない気がする。それでも、ほかの紋章を刺繍する気持ちにはなれない。


 その時、地面がまた揺れた。窓に近づいて外を見ると、あの時の古龍が遠くに見える。


「――――まさか」


 あの時古龍はたしかに消えた。

 そしてあの古龍は、私にだけ用があると言っていた。それなら被害が出る前に。


「どこに行く気なの」


 急に後ろから手を掴まれた。


 少しハスキーなその声に「まさか」と思いながら、それでも確信して振り返って目に飛び込んできたのは、やっぱり大好きなアイスブルーの色彩だった。


「ミルフェルト様、どうしてここに?」


「アレが目的にしているのはキミとボクだ。でもフォリアは怪我をしても回復魔法が効かない。……行っちゃダメだよ?」


「ミルフェルト様でも、倒せなかったんですね」


「倒せる。ただ、倒してしまったら全ての竜が王都に押し寄せるだろうからしなかっただけ」


 そう言ってミルフェルト様は、私から手を離した。


「フリードでも、無事では済まなそうだから。フォリアはここで大人しくしていて」


 大人しくしている?でも、もし致命傷を受けたら助からないのは、私もミルフェルト様も一緒だ。


「――――私も行きます。戦えますよ?私も」


「フォリア……。キミはここに置いていっても一人で行動しそうだね。仕方ない、ついておいで?」


 そう言って差し出された手を私はしっかり握りしめた。



最後までご覧いただきありがとうございました。


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