母がライバル
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扉に入ると、今日もきれいなアイスブルーが目に入った。いつの間にか、私が一番好きな色になっている。
今日のドレスだって、刺繍にアイスブルーをあしらってもらっている。
「ミルフェルト様」
「また来たの。フォリアは本当に、リアナよりもここに来る機会が多いよね」
「ミルフェルト様に会いたいから。本当は毎日来たいんですけど迷惑だと思って遠慮しているんです」
一瞬目を見開いたミルフェルト様が「ふっ」と声を出して笑った。それだけで私は嬉しい。
「まあ、興味があるうちは来ればいい。ここで暇しているだけのボクにとって、キミが来るのは歓迎すべきことなんだから」
そう言って微笑んだミルフェルト様。好き。
「そういえば、この間聖女候補に選ばれたんです」
「……キミならば当然だろうね」
私は少しだけその答えに不満があった。父は宰相でありながら、誰もが認める騎士団最強の騎士で、母は王妃のフローラ様とともに聖女として王国中の羨望の的。
私は、私自身を見てほしい。
「――――何か勘違いしている?」
「え?」
「キミの力は、リアナを越えている。当たり前だ、フリードとリアナのいいところを全部受け継いでいる。キミに何か言う人間で、キミより秀でているものはいなかったよ。ボクが見ている限りね」
いつも、父と母と比べられていた。
それなのに、私ができると信じてくれるミルフェルト様の言葉が嬉しい。
「――――うれしい。好きですミルフェルト様」
「そういうところは母親と父親の遺伝子を受け継いでいるよね」
ミルフェルト様が苦笑している。なぜか、仮面をかぶってしまったようによそよそしい。好きなのに。
「好きです」
私はミルフェルト様の膝に乗って抱き着く。私は子どもだから。子どもなことを利用させてもらう。
「フォリア」
母が扉を開けて入ってくる。知っている。ミルフェルト様が好きなのは。
私は頬を膨らませてますますミルフェルト様にしっかりと抱き着きながら振り返る。
「私、このままここに住みます。お母様」
「これは困ったな。ここは狭いし本以外何もない」
「ミルフェルト様がいます」
帰りたくない。大好きな父と母。でも、私がもっと好きな人は。
「――――わかりすぎる」
「――――リアナ?」
「分かりすぎる。ここに住みたいのわかりすぎる!」
ミルフェルト様が、手のひらで瞳を覆い隠してしまう。このあたりが潮時みたいだ。
「帰りましょう?」
「えっ、フォリア。ここに住みたいですよね?!」
「これ以上はさすがに迷惑です。失礼いたします。ミルフェルト様、また伺います」
「……本当に、フリードの娘って感じだよね。なんだか変な気分になる」
「はい。好きですミルフェルト様」
そして私は、今日のところは撤退することにした。母がずいぶん抵抗していたけれど。
あなたはライバルなので、これ以上は譲れません。
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