SS 図書館の主と少女
リアナ視点です。
今日も禁書庫に逃げてきた私をミルフェルト様が快く迎えてくれた。
「やあ、よく来たね。いっそこのまま、ここに暮らすのはどうかな?」
なんだかとても魅力的な提案だ。不思議なことに、ここにある本は読んだことがないものばかりだ。この狭い感じも、少し薄暗い感じも心地よい。
ミルフェルト様がなかなかここから出たがらないのすごくよくわかる。
でも、ここ数年は国王陛下になったライアス様や兄に外へと連れ出されて相談役をさせられていることが多い。知識だけではない。少し年月を経て、ミルフェルト様の美貌は益々磨きがかかるばかり。
そして数年前にはランドルフ騎士団長と兄が不在の時に、王国に古龍が襲撃してきた。
その時に戦うミルフェルト様を初めて見た。
ディオ様や兄など強すぎる人たちを見慣れた私ですら「何ですかその最強魔法?!」と引くほどミルフェルト様は強かった。
その戦いが終わった直後「さすがに全盛期の3割くらいの力しか出ないね」と、恐ろしいことをミルフェルト様が呟いたのは聞かなかったことにした。神ですか?
そんなミルフェルト様だが、力も知識もひけらかすことなく基本的には引きこもりだ。
ついつい甘えてしまっても、笑って許してくれるミルフェルト様。
「……最近フリード様は少しおかしいと思います」
ここに暮らしていいという魅力的な提案に、ほんの少し心を動かされつつ、最近の兄の甘い台詞に限界の私は机に突っ伏した。
兄ではないと思っても、どこかで兄と思っている自分がいないわけではなく……。
(いや、兄でなくてもあれはない)
すでに私と兄は夫婦なのだ。実際には私と兄は兄妹でないのだしそこは問題ない。
ミルフェルト様が居れてくれた紅茶を飲みつつ、心のバランスを取り戻す。
本日は聖女としてのお仕事で、騎士団に臨時で呼び出された兄とともに魔獣の討伐に出かけた。
はっきり言ってランドルフ騎士団長すら「いや、魔力が黒くなってからのフリード殿の強さおかしいと思う。俺もう騎士団長引退しようかな」と言わしめるほどの強さの兄。
今回は一応聖女の私まで呼ばれるほどの案件だ。もちろん、現れる魔獣の強さも、数も半端なかった。
「リアナ、俺の後ろに下がっていて?愛しい妻が少しでも傷つくのは見たくない」
いや。私だって、光魔法を使えば結構戦えると思っている。
世界樹の呪いを抑えなくて良くなってから、ランドルフ騎士団長に及ばないまでも結構強いと思う。
「リアナを守ることが俺の幸せだから」
そう言って微笑まれてしまえば、私の動揺はすでに限界を超えてしまう。
どうしても、どうしても慣れることができない。
そして、今回も私の出番はなく戦いは終了した。
「フリード様は、私に対する過保護が過ぎると思いませんか?」
「それは否定できないね?見ていて面白いからもっとやったらいいとは思っているけど」
そう言って笑うミルフェルト様。その時、扉が急に開いて一人の少女が飛び込んできた。
「あっ!やっぱりここにいた!ミルフェルト様のところに行くときは私もつれていってほしいと言っているのにずるいです!」
少女は金髪に釣り目がちの青い瞳をしている。そのまま、ミルフェルト様の膝によじ登って抱き着いた。
「フォリア……あまりはしたないことをしてはいけないわ」
私はため息をつく、フォリアはいったい誰に似たのかお転婆だ。
「いいの!私はミルフェルト様のお嫁さんになるんだから!」
「やっぱり、リアナの娘って感じだよね……」
「えぇ、どういう意味です?!」
ツンと向こうを向いたフォリアがミルフェルト様にますます強く抱き着く。
「ね?ミルフェルト様。あと少ししたら私をお嫁さんにしてくれますよね?」
「フォリアが大きくなっても、まだそう思っていたらね?」
ミルフェルト様が大人な対応をする。ここ数年、フォリアがこの場所を初めて訪れてから毎回繰り返されている光景だ。
「大丈夫、私がずっとミルフェルト様が好きなこと、変わるはずないです!」
本当に娘のフォリアは10歳にして、誰に似たのか好きな人への好意を隠さない。そういうところ、本当に兄にそっくりだ。そういえば、兄はいつから私の事を好きだって言っていたかしら……?
「まあ、大人になったら本当に好きな人が現れると思うけど?」
たぶん本気にしていないミルフェルト様が苦笑しているけれど、兄の遺伝子を強く受け継いだ彼女は絶対に好きな人を諦めたりしないと私は思う。
覚悟した方が良いと思います。
まあ、私にとってもミルフェルト様が息子になるのは不思議な気がしますけど?
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