SS 同僚と上司
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極秘資料管理室の奥には、さらに奥へと続く扉がある。その扉の奥に入れるのは、ごく一部の人間だけだ。今現在は、赤毛にモスグリーンの瞳をした通称『同僚』と呼ばれる極秘資料管理官だけが入ることを許されている。
扉を開けると、相変わらず少しかび臭い香りと、古い紙とインクの香りがした。
「また今日も、引きこもっているのか」
ため息交じりに声をかけると、目が覚めるようなアイスブルーの髪をした青年が読書のためにうつむいていた顔をこちらに向け、意地わるげな微笑みを見せた。
「まあ、表に出られないこともないけど」
「妹ちゃんが、あんたの話が出るたびに泣きそうだけど」
「それは光栄だ。でも、ボクの存在は表に出ない方が平和だと思うよ」
「なんだかんだ言って、引きこもってるのが好きだよな。……ミルフェルト様」
アイスブルーの髪の毛、そして同じ色の瞳をしたミルフェルトは今日も引きこもっている。引きこもっているようでありながら、王国のすべての情報はミルフェルトのもとに集まっていた。
「……そういえば、フリードは宰相になったって?」
「ああ、俺のこと扱き使って手に入れた情報、信じられないくらい使い方が上手いな宰相様は。どう考えても最短で上り詰めたと思わないか?」
「……まあ、この世界のフリードは特別だと思うけど。キミも王国の全てを知る筆頭管理官就任おめでとう。うーん、そろそろ宰相様にはお会いしようかな」
「――――もう、扉の前に控えているけど」
ミルフェルトがにっこりと笑う姿は、どんな女性でも見惚れてしまうだろう。だが、同僚はその笑顔には騙されない。
この笑顔には裏があるのを知っているから。
「今日はその後ろに、宰相婦人もいるよね?どこから情報が漏れたのかな?やっぱり、宰相様ともなると何でもわかってしまうのかな」
「わかっているなら、いい加減入れてやれよ」
髪の毛をいじろうとして、そこに長い髪がすでにないことに初めて気が付いたように、ため息をついたミルフェルトは立ち上がる。
「どうしようかな……。ここから見ているくらいがちょうどいいんだけど?……魔力の大半を失ってようやく周りと同じように年を重ねられるけどさ」
そんなこと言っても、ミルフェルトは年を取ることになった以外は恐ろしいほどの魔力量のままなのだ。
それこそ、時間を越える扉を作ることができる程度には。おそらく、フリードやかつていた聖騎士ですら本気のミルフェルトには敵わないだろう。
赤毛の青年の口が弧を描く。
「ああ……なんだかミルフェルト様がウジウジ悩むのに付き合うのもいい加減面倒になってきたな」
王族ですら、その足元にはひれ伏すほどの、ミルフェルトが持つ裏の権力と立場、そして実力。そんなことは、あまり赤毛の青年は気にしていないように見える。
そのまま、青年は扉を勢いよく開け放った。
「あ、キミはホントそういうところ度胸あるというか、空気読めないよね?!」
開け放たれた扉の目の前には、美しいブロンドの髪と青い瞳の令嬢が釣り目がちの瞳に涙を湛えて立っていた。そのまま、勢いよく走り出し、ミルフェルトに抱き着く。
「どうして今まで、会ってくれなかったんですか!!」
そうやって、素直に感情をぶつけてくる宰相の妻は相変わらず可愛らしい。
本当は、ミルフェルトも意地悪で会わなかったわけではなく、あれから始まりの世界に戻されて、残してきた妹に泣きつかれたり、残りの魔力でここへの扉を作ってみたりといろいろとあったのだけれど……。
「まあ、そのうち話してあげるからまたおいで?可愛いリアナ」
今日のところは、気持ちの整理をつけるべく、三人まとめて公爵家の図書室に送り届けておいた。
フリード「とりあえず飯食っていけ?」
同僚「だから、公爵家の晩餐とか勘弁だって、いつも言ってるだろ?」
フリード「王国の至宝ミルフェルト様にあの態度できる人間がよくそんなこと言えるな?」
リアナ「明日の早朝にミルフェルト様に会いに行くんですから、同僚さん今日は泊まって行って下さい?妹さんも呼びますね」
同僚「あんたら二人揃うと面倒だよ!!」
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