SS 聖騎士と悪役令嬢〜再会〜
私は、最後まで世界を救うために尽くすと決めている。
壊れかけていた心は、あの人の幻を見た日から目的を思い出している。
黒いドレスは、たとえ失っても私の心はあなたの元にあるという証。
まだ、私は頑張れる。
優しい声をしたあの人のいた世界を守りたいから。
「ふう……。それにしても、いくら呪いを取り込んでも世界樹の呪いは消えないのね」
フローラと対立したのは、悪役令嬢としての役割を全うするため。あの人が居なくなってしまった15歳のあの日から、私の心は凍り付いてしまったから。
それでも、ディオ様は絶望と呪いで壊れかけた私に会いに来てくれた。
壊れかけていた心が見せた、幻だったのかもしれないけれど、それでもあなたに救われた。
だからまだ、私は諦めない。私はあなたがいたこの世界を守って見せる。
「あの時、せめて気持ちを伝えれば良かった……」
ディオ様が18歳の誕生日を迎える前日。ドラゴン討伐から帰ってきたディオ様は、私に会いに来てくれた。あの時に、聖女候補の私には、呪いの蔦がディオ様の命を奪おうとしているのがはっきりと見えてしまった。
助けたいとすべての力を使ったのに、ディオ様を助けることはできなかった。
『約束……覚えていますか?幸せになって』
ディオ様が最後に残した言葉は、私を案じるものだった。
(ごめんなさい、その約束は果たせません。ディオ様のいない世界にたぶん幸せはないから)
私は、ここが乙女ゲーム『春君』の世界だと知っている。
ゲームには出てこないディオ様。今になって思えば、王太子ルートで少しだけ語られる王家の呪いに蝕まれたという呪われた騎士はディオ様だったのだと思う。
孤独も、悪役令嬢に生まれてしまった不安も、幼い頃に出会ったディオ様だけが癒してくれた。自分が悪役令嬢だと知ったその直前に出会ったディオ様。
乙女ゲームとは関係のないディオ様と一緒にいる時だけは、私が悪役令嬢ではなくてただのリアナでいることを実感できた。私が私でいられた。
いつしか、あなたと一緒にいる時間だけが、私のすべてになった。
(私が悪役令嬢にならない未来があるのかもしれない)
そんな未来を夢見た私は、ヒロインのフローラが学園に入る前に探し出して話しかける。
フローラはゲームのヒロインにふさわしくて、優しくてとても純粋な少女だった。私たちはすぐに打ち解けて、友達と呼べる存在になった。
それなのに、ディオ様すら乙女ゲームのシナリオの一部だった。
王家の呪いを肩代わりした騎士……あなただけは『春君』の世界には関係がないと思っていたのに。
「ディオ様……ひどいですよ。もっと早く教えてくれたらどんな手を使っても、私が聖女になってあなたの代わりになったのに」
18歳の誕生日を一緒に祝おうと言った時に、寂しそうに笑ったディオ様……あの時に、もっと真剣にあなたの思いを聞いていればよかった。
誕生日の前日にドラゴンを倒してきたディオ様は私に会いに来てくれた。そこで初めて、信じられないくらい根深い呪いにディオ様が蝕まれていることに気が付いた。
私のすべての力を使って、身代わりになろうとしたけれど、それも叶わなかった。
ああ、どうしてこんなにも時間があったのに、私はまだ聖女になっていないんだろう。
「ディオ様……」
あの日、最後にディオ様が残した言葉だけを胸に生きてきた。ディオ様がいた世界を守ることが私の幸せだと信じていたから。
それでも、ディオ様の弟のトア様が魔王になって、ライアス様の妃になったフローラが涙を流して私を救いたかったと言ってきて、お兄様が私を救おうと破滅フラグに足を踏み入れる。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
また、世界樹の呪いの蔦を前に絶望から壊れかける私。それでも、あなたのいた世界を守りたいという気持ちだけが私を支える。
その時、七色の光と漆黒の闇が私の周囲を包み込んだ。
「そんな顔をしないで……愛しい人」
光と闇の渦がおさまっても、何が起こったのか分からずに呆然としている私の耳に、忘れることなんてできない優しい声がした。
そんなはずないのに。
この声が聞こえるはずなんてない。私の心はとうとう壊れてしまったのだろうか。
それでも、顔をあげた私に、あの時よりも少し大人びたディオ様が笑いかけていた。
「ディオ様……」
「一人にしてごめん……夢で見たリアナの泣き顔だけがずっと忘れられなかった。もう、俺が来たからには絶対守ってあげるから」
「――――どうして……」
「愛しいリアナ。……幼いあの日、生きている限りあなたを守ると誓ったから、約束を守るために、ここに来たんだよ」
生きて……いた?でも、たしかに私はディオ様を助けられなくて目の前であなたは。
うう、それにしても白い聖騎士専用の騎士服カッコいい。なんで、ディオ様がメイン攻略キャラじゃないのか理解に苦しむわ。ああ、なぜ今この世界にスチルがないの。この麗しさ、目に焼き付けなくては。
「スチル……」
思わず両手で口を覆いつぶやいてしまった私を見て、ディオ様が苦笑した。そんな姿すら神々しい。
「ふふ。リアナはやっぱりリアナだよね?」
ディオ様が、微笑んでそんなことを言った。私が私なんて当たり前なのに?
その瞬間、ディオ様に抱きしめられた。信じられない、夢だからっていくらなんでも都合が良すぎるのではないだろうか。
「この力の全ては、リアナが泣かない未来のために使うって決めているから。期間限定じゃない永遠の聖騎士の誓いを受け取ってくれないかな」
どうして生きているんですか。
それに信じられないくらい強くなっていませんか?
ところで、聖騎士の誓いって?
その言葉を告げようとしたのに、私の唇はディオ様に塞がれてしまって、その言葉を伝えることは出来なかった。
キラキラと輝く魔力が降り注いで、一ヶ月で効果が切れたりしない本物の聖騎士の最上位魔法に囚われたことを知らないまま。
(なぜか、私の中の黒い蔦が半分になった気がする)
やっぱり都合の良い夢かと目を閉じて、私はその口づけを受け入れた。
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