その日、サキュバスは狼女と入浴した
コロナ流行ってますねー。
「吸血鬼お姉さん…。」
「ん〜?」
サキュバスは吸血鬼に抱きつかれたままだ。歓迎会では食べさせてもらったり、姉のように振る舞われた(サキュバスの方が年上)。その歓迎会がお開きになってもこの調子だ。
「ところで、発端のDは…?」
サキュバスが、Dがいないことに気づき、吊り目でDを探す。
「お父さんを探してるの?」
「…お父さん?」
吸血鬼が不思議そうに言い、サキュバスが首を傾げる。
「そう。鬼姉さんと狼姉さん以外はそう呼んでるよ?私たち養子だし…。」
「…そう…。」
「…違うよ?そう呼ぶようにさせてるとかじゃないよ?私たちは親亡くしちゃったし…。お父さんって呼ぶ方が馴染むから…。優しくて、時に厳しくて本当の父親みたいだから…。」
吸血鬼が遠くを見るような目をした。過去があるのだろう。
「…どうして、皆んな親をなくしちゃったの…?」
サキュバスが興味本位で聞いた。
「…鬼姉さんは、集落があったみたいだけどYに滅ぼされちゃったらしくて…。最初は同じ組織のお父さんと仲がものすごく悪かったよ?毎日のように逃げ出して、連れ戻されて…。けど、いつものように出て行った、ある日から突然慕うようになったし…。」
「私の噂?ふふふ。」
「あっ、いや…。どうして親をなくしたのかって聞かれて…。」
吸血鬼が鬼に経緯を話す。
「そんなの、妖怪それぞれよ。住む場所を壊されたり、捨てられたり、置いてきぼりにされたり、最初からいなかったり、異端だから疎外されたり、いつの間にか逸れていたり、記憶がなかったり、殺されたり、理由の分からない子もいるわよ。ふふ。」
鬼が不敵な笑みをしながら言う。サキュバスはこの家庭の笑顔の裏にある哀しみが分かり、どこか行こうにも行けなくなった。せめて、自分もその気持ちを緩和させてあげたいと思ったからだ。
「お父さん知らない?」
「彼なら、1人見回りに行ったわよ。夜は妖怪の動きが活発になるからって。ふふ。国の方針分かっているのかしら?ふふふふ。」
「ありがと。」
吸血鬼が姉の鬼にお礼を言う。
「じゃあ、お風呂入ろっか。」
「…え?」
サキュバスは耳を疑った。
「流石に…それはちとな…。」
「な〜に〜!」
「気色が悪いのう。」
「竜姉さんはいつも文句ばっかり!」
「いや、単純に気色が悪い…。いつもはからかい半分じゃが、今回は流石に…。」
「え…?そこまで…?」
竜が大真面目に言い、吸血鬼が驚愕する。
「サキュバスちゃん。一緒にお風呂入る?電気代や水道代はDさんのお給料から引かれているみたいなの。それに、シャンプーとか使うのが違ったりするから…ね。」
「…家計に助かるなら…。」
「ありがとう。」
狼女が柔らかな笑顔で感謝を述べた。言い合う竜と吸血鬼を放って、狼女とサキュバスが一緒に入る。
…………
浴室
「少し狭くてごめんなさい…。」
「い、いえ…そんな…。」
2人で入っている。
「これがシャンプー。サキュバスちゃんは…人間用で大丈夫かな…?」
「よく分かんないけど、転々としていた時から使っていたから多分大丈夫だと思います…。」
「そう…良かった。無かったりしたら大変だもんね。人間用は…これ。座って?」
狼女がバスチェアをポンポンして、笑顔で待ってくれてる。サキュバスはそこに座り、頭を洗ってもらう。
「目に入りそうだったら言ってね?」
「は、はい…。」
優しい笑顔で言ってくれる狼女。銀髪のショートボブが美しく輝き、同じ色のフサフサした尻尾を振っている。
「…ね。」
「…?」
「敬語とか、やめて欲しいな。」
「あっ、は…。…うん。」
「貴方もこれから姉妹だし…。家族じゃないみたいだから…。」
「…わかった。」
サキュバスが了承する。その言葉を言った時の、鏡に映った狼女の顔が寂しそうだったからだ。
「よし、終わり。流すよ〜。」
「うん。」
狼女が髪についた泡をお湯で流してくれる。
「狼女お姉さん…。」
「な〜に?」
「…背中流す?」
「してくれるの?本当?嬉しい〜。」
狼女と場所を交代して、今度は狼女が座る。
(…耳…。他の種族を見るのは稀だから、前から気になってた…。どんな感触がするのかな…?)
サキュバスが手を伸ばしたが…。
ヒュッ!
「ど、どうしたの…?」
一瞬で振り向き、聞いてきた。
「耳ってどんな感触がするのかなって…。」
「…そうだったね。知らないんだよね。」
狼女が表情を柔らかくする。
「耳にはあまり触って欲しくないな〜…。」
「そうなの?分かった。触らない。」
「ありがとう。」
そして、サキュバスは背中をコシコシ洗ってあげる。尻尾が思ったより邪魔だった。そして、泡をお湯で流す。
「ありがとう。身体洗ったら、湯船に浸かって。寒いでしょ?」
「…寒いのには慣れてる。」
「…そっか…。…でも、それは慣れちゃいけないこと。あったまったほうが気持ちが良いよ。」
狼女が微笑みながら言う。そして、サキュバスは体を洗い終わった。狼女は頭を洗っているらしい。
「ふぅ…。」
湯船に浸かる。
(それにしても、本当に綺麗な銀色…。…昔から狼人は白色って言われていたんだけど…本当に綺麗…。)
サキュバスがずっと見ていると、狼女が頭の泡をシャワーで流す。
ブルルルルルル…
水を浴びた彼女は犬そのもので、身震いして水を切る。サキュバスはその攻撃を食らった。顔や頭、湯に浸かってないところ全部にあたった。
(…?耳の裏の奥に傷跡がある…。だから触られたくなかったんだ…。)
身震い攻撃を食らったままそんな感想を述べる。
「ちょっとそっちに飛んじゃったかも…。」
「うん。全然ちょっとじゃなかったよ。」
水浸しの彼女を見て、狼女が少し笑う。そして、サキュバスの隣に狼女が来た。
「…サキュバスちゃんって、本来の名前は夢庵でしょ?」
「それはファミリーレストラン…。夢魔ね。」
「そう。で、夢魔ってことは他人の夢を見ることできるの?」
「うん。」
「そう…。」
「……。」
「……。」
そんな沈黙が流れ、しばらくした後…。
「じゃあ、Dさんの夢も見ることが出来るの…?」
「ふぇっ!?」
「あ、い、いや!そういうことじゃなくてね!ただそのいつも何考えているのかなって!気になっただけ!」
サキュバスが驚愕して、狼女が慌てて言う。
「……。」
「べ、別にどう思っているとか…ちょっと気になっただけ!ちょっと!」
「……。」
狼女が慌てて言うが、サキュバスには意味がない。
「…何を調べて欲しいの?」
ただ確信が無いため、彼女に普通に接しようとするサキュバス。
「え…。も、もちろん!私たちのことをどう思っているとか、…荷物になってないかな…とか…。」
「そう…。」
それを聞いて安心するサキュバス。しかし…。
「あと、私たちの中では誰が好みとか…。あっ!」
「……。」
「ち、違うよ!ただ気になっただけだよぉ!」
うっかり口が滑り、サキュバスに確信させられた。
…………
風呂上がり
「サキュバスちゃん!お姉さんを置いて狼姉さんと入るなんてひどいよー!」
吸血鬼が怒っていた。
「…吸血鬼姉さん…。」
「…どうしたの?」
「Dってモテるの…?」
「え?なに?どうしたの?何があったの?」
いきなり言い出し、意味がわからなくなる吸血鬼。鬼や竜は狼女の気持ちを知っていたみたいで、微妙な顔をしていた。
「私は例え世界が滅びようともサキュバスちゃん一筋だから心配しないで?」
「それはそれで怖い…。」
そんなこんなで真夜中1時過ぎ。吸血鬼と狼女とサキュバス以外は眠る時間だ。比較的遅く寝る鬼と竜以外は既に部屋で寝ている。
「ふぁ〜…。儂もそろそろ休息に入ろうかの…。」
「酒は飲まないの?ふふふ。」
「儂はドラゴンと比較して未成年じゃからの…。今飲めるのは鬼以外おらん…。おやすみ…。」
「そう。ふふ。」
竜が部屋に入り、鬼が不敵な笑みをする。
「…鬼姉さん…。飲みすぎないでね…?」
「分かってるわよ。ふふふ。」
吸血鬼が心配して、鬼が笑う。
「……。」
サキュバスは本日色々あり、疲れてウトウトしている。そこに…。
「ただいま。」
「「「!?」」」
「おかえりなさい。ふふふ。」
Dがベランダから入って来た。鬼は分かっていたみたいで、あらかじめベランダの鍵を開けておいたのだ。
「どうだった?ふふふ。」
「…迷子を2人保護。後に親が迎えに来た。人間と同じように、無責任な親が増え始めている。狩った人数は35。攻撃してこなければ狩らないと言っているのにな。どうにも、俺たちが人間だから舐めてかかる節がある。」
「最近増え始めてるわよね。ふふ。」
「鬼は酒を飲んでいるのか。」
「貴方も飲む?ふふふふ。」
「いや、今日はやめておく。」
「そう。ふふ。」
Dは風呂場へ行く。
「ほら、モテる要素ない…て、サキュバスちゃん寝ちゃってる…。」
「?そうみたい。」
吸血鬼と狼女がサキュバスの顔を見る。
「…可愛い…。」
「頬なプニプニしてる…。かわいい…。」
2人にいじくりまわされているところを肴に、鬼は酒を飲むのだった。
次回ハあるカナー…そろそろ書かないとなぁ…。
登場人物
狼女…姉妹の中では1番表情豊かで笑顔を絶やさない。耳の裏の奥に、隠しているが傷跡がある。
吸血鬼…自称、サキュバスのお姉さん。実際は年下だが、妹が欲しかったため、そういうことになっている。え?妖精?なんのことやら…。