何その島特有の儀式!?
虫食べる描写と、同性愛の表現があります。
村に襲撃してきたオークたちとその住処を壊滅させた、その日の夜。
村から少し離れた、石材を積み上げた儀式用の祭壇の周りでは、盛大な宴が行われていた。
祭壇の周りでは村人たちが、食えや踊れで喜びを大いに表現し、祭壇の最上段には、オーク殲滅の最大の功労者であり、村の女王に就任したアリアが、伝統的な装飾を身にまとって佇んでいる。
その隣には、前女王の娘のリンが、アリアの顔をチラチラ見ながら顔を赤くして、恥ずかしそうに座り、最上段から少し下った段には、族長と司祭が、アリアを神のように崇めて座っている。
「それにしても、この盛り上がりはちょっとオーバーじゃねぇか? あたしにとっちゃ、いつもの怪物退治をやっただけなんだが」
「いいえ! 滅相もございません! 我らにとってあのオークの軍勢は、我らを滅ぼす最大の脅威の一つでした。 それをあなた様は、いとも容易く灰塵と化し、我らをお救いくださいました。
やはり、あなたこそが、我々セインの民が探し求めた救世主でございますじゃ・・・!」
そう言うと、族長は前にも増して、アリアに対し、深く頭を下げて崇め、その隣では司祭が、預言の書と呼ばれる日記に、何か書き足しているのを見て、アリアは呆れ半分に、そんなもんか、と思った。
そして、そろそろ島生活初日の夕飯を食べようかと、自信の前に並べられた『料理』を見る。
それは、大体アリアの想像にあった、島の先住民の食べ物ほぼそのままだった。
盛り合わせた木の実やフルーツは普通、それ以外は、干した魚を湯煎で戻した煮魚、その煮汁に野菜やハーブを入れた塩気ないスープ、雑多な穀物を茹で蒸した小盛りのライス・・・
アリアが貴族生活で出てくる物よりも圧倒的に質素だが、戦場ではこれよりも質素か、サバイバルな食事が多いため、アリアはそれらの献立に、文句はなかった。
欲を言えば、肉が食いたかったくらいだ。
「滅亡の危機とか言ってが、食料の方はどんな問題がある?」
「はい、最近は狩りに行ってもなかなか豊漁に恵まれず、この宴のために用意出来た物も、備蓄の半分にも満たず・・・申し訳ございません・・・」
「そうか・・・じゃあ、明日からは本腰入れて狩猟しねぇとな」
「あ、いえ! 狩りには村の者たちに行わせますので、女王様のお手を煩わすわけには・・・!」
「アホ、オークにも負けるような奴らに任せっきりに出来るかよ。
この村、畑の方はやってねぇのか?」
「はい、田畑には作物を植えております。 ですが最近は、村人総出で神に祈りを捧げても、女王様がご不在な影響か、こちらも豊作には恵まれておらず・・・」
「神様に祈り捧げるタイプの農業スタイルか・・・、それはめんどくせーな。
ところで、この村の連中、虫は食べないのか?」
「あ、はい。 ですが、近ごろの若い者は、虫を食べるのを毛嫌いしておりまして・・・ワシのような老人くらいしか食べる者はおりませぬ」
「それ、どんな感じのか、ちょっと持ってきてくれねぇか?」
アリアがそう尋ねると、族長は階段を下りて、自分の家に早歩きで向かった。
で、族長が持ってきたのが・・・
「蜂の子の蜂蜜漬けかー、しかもハニカム入り。 なかなか上等なもん持ってるじゃねぇか」
そう言うとアリアは、壺の中に手を突っ込み、蜂蜜に漬かった蜂の子と六角形の集合体を、何の躊躇いもなく、食べた。
隣で見てたリンが、思わず、きゃっ、と短い悲鳴を上げる。
アリアの口の中に、島特有の花から採った複雑かつまろやかな甘みと、蜂の子の半溶けしたチーズのような食感とクリーミーな味、一噛みするごとに、蜂蜜がジュワッと溢れるよくしみ込んだパンのようなハニカムの食感のハーモニーで満たされた。
それらを胃の中に飲み込むと、静まり返って様子を伺う村人たちの、興味と驚愕の視線がアリアに集中する。
「大陸だと、王族貴族の間では、虫を食うことは馴染みがねぇが、田舎に行くと農民がよく料理して食ってるんだよ。 あたしも、戦場で食う物に困ったら、度々食うしな。 まあ、大陸の話は、お前らには、分からんだろうが」
アリアが、そう言葉を紡ぐと、族長は見上げる村人たちに向き直り、こう言った。
「・・・と、このように、女王様は、虫を食すことを嫌忌なさらないお方じゃ。
皆も、女王様を見習い、虫を食べるように」
そう、村人たちに言い聞かせた。
その言葉を聞いた村人たちは、自分も挑戦してみようと、家々から虫料理を持ち寄り始め、そして食べ始めた。
(子供の好き嫌いを直そうとするお母さんかお前は)
それから数刻過ぎ、夜も更けてきて、宴の喧騒も段々と落ち着いてきた。
頃合いを見て、族長が言葉を発する。
「では、女王様。 この島に伝わる、神聖な儀式を、執り行っていただきたく存じます」
「いや、それはいいが、結局儀式って何すんだよ?」
「おお、そういえば、お話ししておりませでしたな、これは失礼。
あなた様には、このリンと共に、
『子宝の儀式』を、執り行っていただきたいのです。」
族長がそう言うと、リンは、アリアの前に歩み寄る。
リンは、顔を真っ赤に染めて俯いている。
アリアは、どういうことか、全く意味不明だった。
「子宝って・・・つまり、あたしとこの娘はなにすればいいんだよ?」
「つまりそのー・・・なんと仰れば良いか・・・つまり、あなた様とリンで、そのー・・・
『子作り』をしていただきたいのですじゃ。」
族長の言葉に、両手で顔を覆い隠す真っ赤なリンを後目に、アリアは尚更解らなくなった。
「お前、バカか? 女同士じゃ、子供は作れねぇだろうが」
「いえいえ、我が部族では、代々、清らかな女子同士が、一晩の間この祭壇の上で共に過ごすことで、子を成すことが出来、そうやって子孫を繁栄してきたのでございますじゃ」
「・・・・・・・・・マジで?」
「え、ええ。 そうでございますが・・・」
族長の反応で、嘘ではなく本当にこの方法で、子作りしていると、アリアは理解した。
そして、その事実に、驚愕した。
(なんだ、その島特有の謎儀式!? つーか、こんな出会って間もないような娘と子供作るなんて、マジ・・・・・・第一、お父様になんて言やいいんだよ・・・)
次回、国王視点です。