第一島人、発見
軍艦が水平線の彼方へ消えていくのを見送ったアリアは、
砂浜に押し寄せる波で靴とドレスの裾が濡れるのも気にせず、
周りに人がいないので気にする素振りも見せず、
深く長い深呼吸をして、少し思いにふけた。
(これであたしは正真正銘国外追放かぁ。
あのマヌケを始末出来なかったのは心残りだが。
でもまあ、あのバカの処分はお父様と王様がつけてくれるだろうし、
正直こんなところに取り残されても、泳いで帰れる自信あるし、
少しの間のバカンスってところだろ)
アリアは、そうした気楽な考えと、ある種の解放感を感じながら、とりあえず波の来ない陸に上がった。
砂浜の乾いたところに荷物を置くと、とりあえず持ってきた物を確認した。
最近めっきりと使う機会のないメイスハンマーとハルバード。
それと同じく着る機会の少なくなった重装鎧。
着の身着のままで着てきた衣服が一着。
以上である。
アリア自身は、自身の身体と、武器があればどこででも生きていけると自信を持って確信している。
食料は、魚や動物を狩るつもりでいるし、雨風凌ぐ場所も、洞穴を探そうと考えていた。
戦場やダンジョンを渡り歩いてきた彼女にとって、未知の島の大自然などは全く問題にならないのである。
野宿の全てが苦ではないアリアは、完全にバカンス気分で、早速砂浜で武器の素振りを始めた。
家では使用人たちに止められるし、学園でもやろうと思ったときに、妹やバカ王子の取り巻きたちが騒ぎを起こして出来なかったので、幼少の頃から日課になっている武器の素振りが出来ないことは、アリア自身にとってストレスになっていた。
それが、今では思う存分できるので、アリアの心は晴れやかだった。
素振りを始めて早一時間が経過しようとしていた。
アリアはまだ素振りを続けていた。
これまで出来なかった分を取り戻そうとしていたこともあるが、
仮想敵で妹や王子相手に振るっていると想像すると、とても楽しくなっていたからだ。
日の少し落ちかけた砂浜は、王国にいた頃の同時刻と比べると、とても暑かった。
なのでアリアは、着ていた服を脱ぎ捨て、鎖帷子製の下着の姿になって素振りをしていた。
王国でも、暑い時期になると、アリアはすぐに服をはだけており、それを使用人に止められていたため、今のアリアは、本当に気分爽快であった。
そんな上機嫌なアリアだったが、
こちらを見ている『何者かの』視線にはすぐ気が付いた。
方向は、砂浜を出てすぐに広がるうっそうとした林の中、
数は複数、気配を隠そうともせず、もしくは消し方を知らず、隠れてこちらの様子を見ている感じだ
多分、獣の類ではない、この感じは『人』だ。
この島に、人が住んでるとは思わなかったが、見られ続けているのも気分が悪い。
アリアは、おおよそ1000体目の架空の王子の体を真っ二つにすると、メイスの柄を砂浜にドンと突き刺し、こう言った。
「そこで隠れて見ているのは分かってんだ、出てこいコノヤロー!」
軽めの威嚇も含めた怒声に、草むらからあからさまにガサガサガサと音が出て、そのすぐ後に林の中から、ゾロゾロと人の姿が現れた。
動物の牙を付けた首飾りに、葉っぱで出来た腰みの。
あからさまに粗野な衣装を着た人間が、6人。
体格と服装からして、全員男。
皆一様に、アリアを、興味と緊張の入り混じった顔で凝視していた。
「あんたら何者だ? あたしになにか用か? ああ?」
「い、今、村の者が、長老と司祭さまをお呼びしております。 し、しばしお待ちを・・・」
アリアの問いかけに、一番体格の良い青年が、緊張の面持ちで答えた。
村ということは、この者たち以外にも何人かまとまって大人数がこの島で生活しているということは想像出来る。
(長老は分かるが、司祭なぁ。 聖協会の連中がこんな辺鄙な島にいるわけねぇし、呪術とかの方の司祭だろうな、多分)
昔、聖協会の人間が闇の売買や不貞を働いていると聞いて、司祭や神官や信者たちを、「黒ミサ」と称して血祭りに上げたことをふと思い出していたアリアは、その村人たちの視線が自分に集まっていることに気付く。
女一人の自分に対し、男の村人複数・・・
女を捨てた生活をしている自分でも、「そういう類」のことは想像もするし、牽制も必要だと思った
「あたしに妙なことしやがったら、この場で叩き潰すからな」
村人たちを睨みつけながら、手にした武器を、ブゥンと振るって風を起こす。
その風を受けた村人たちは、腰を抜かして悲鳴を上げながら平伏した!
「わ、我らの無礼は、お詫び致します! どどど、どうかお許しください!」
「そこまでビビられちゃあ、こっちが悪いぜ」
アリアは呆れたようにため息をつくと、柄で地面を軽く叩いた。
学園では暴君不良と恐れられたアリアだったが、弱者や善人、卑屈や卑怯者ではない者、性根の良いやつなど悪意のない者には比較的優しかった。