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敵を許すのも、強者にしか出来ねぇ

ーーーーーー静寂




悲鳴と怒号と、骨肉の砕ける音の響き渡っていた、その音が止み、オークの子供は、頭に抱えた手を離し、地面にピタッとくっつけて、泥だらけの身体を起こした。



酸鼻な光景・・・・・・



かつての、同族だったものたちの、血肉が散らばり、剥き出しになった骨の先に虫が止まって這いずりまわり、木の幹も、水たまりも、辺り一面真っ赤に染まっている。



そんな、死体の山の向こう、人間たちの集まっている、その中心。


ぽつぽつといる大柄の男たちよりも、大きく見える、赤い血に染まった、人間の女。


あからさまに、周りの人間とは違う、皮膚が捲り返りそうなほどの殺意を放つ女。


その、肌に伝わる恐ろしさ、神々しいと感じるほどの美しさ、血塗れの腕のおどろおどろしさは、オークの子供に、気を損ねてはならぬ、触れてはならぬ、『強き者』であると理解できた。




その強き者が、その鋭い眼光が、自分の目線に合い、怖いほど静かな足音で、こちらに向かってくる!




「・・・ひィ・・・!」



明確な死が、自分の方へ向かって来る。


オークの子供は、すぐにでも、逃げ出したかった。

だが、腰は骨を砕かれたようにへたり込み、全身は、杭で刺されて地面に縫われたかのように動けない。


ただ、残酷に、数多の魂を喰らう強き者が、弱き肉に近づいてゆく。



ついに、赤に染まった女が、オークの子供の間近に迫った。


その瞳は冷たく、暗い夜空の闇のように、オークの子供を見下す。



「・・・・・・ば・・・ばケモの・・・・・・!」



死と恐怖と、強者の覇気に、女が何をする、何を話す前に、自然と言葉が口走っていた。




「よく言われる」


アリアは、淡々と、言葉を告げ、しゃがんで、地面に倒れ伏す、子オークの瞳をのぞき込む。


「お前の仲間は、皆、あたしが殺した。


 お前は、どうする?  逃げるか?   それとも、仲間の仇を、あたしをこの場で討つか?」





「・・・・・・・・・死二たくナい・・・・・・死にタクない・・・!」


子オークは、必死にもがくように、言葉を紡いだ。



「それは、本当に思ってんのか? 仲間を殺したヤツを放って、同族はお前一人だけ、それでも生き続けるのか?」


「・・・死二たク・・・生きたイ・・・まだ・・・生きテ、イたい・・・!」


「・・・そうかよ」



アリアは、たち上がって、周りの村人たちを見る。


皆、武器を構え、臨戦態勢を取っている。

ただ一人のガキ相手に、あれだけの力差を見せた後で。



アリアは、ため息を吐くと、オークの子供に向き直り、言葉を放った。











「そうまで言うなら、その覚悟を見せろ。 今日から、お前は、人間として生きるんだ」



「・・・うう? ・・・ボクは、ニンゲン・・・?」


「自分の種族を偽れとは言ってない。 今日からお前は、あたしたちと一緒になるんだ。 人間の群れの一つとして、あたしたちの仲間として。

不必要に他人を傷つけず、強いも弱いもない。

仲間を信じ、助け合い、生きてゆく。



今日からお前は、『ヒト』になるんだ」



「・・・ああ・・・群れ、仲間・・・ボクは、ヒト・・・!」



子オークは、瞼を閉じて、気を失った。


母に抱かれて眠る、子のような安らかな顔だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「・・・・・・あ、あの。 アリア様、本当によろしいんでしょうか?」



村へと帰る途上、オークの子供を抱きかかえて歩くアリアの背中に、リンが、不安気な声で問いかけた。



「心配しなくても、コイツの世話は長老にやらせる。 あの爺さんなら、ひねくれたガキに育てる心配もないだろ」


アリアは、特段変わった様子もなく、歩き続ける。


「・・・この子の不安なのは、そういうんじゃないと思うけど?」


ショーンディも、ややイラついた様子で、言葉を投げかけた。


「確かに、オークは暴れるだけのボケカスに思えるだろうが、コイツくらいのガキなら、今からでもちゃんとした親の元で育てれば、普通の人間と同じような性格になる」


「それ、本気で言ってんの?」


「コイツがあたしを見た時の反応見たろ。 成体のオークたちは、あたしをみくびって死んだ。

 この子オークは、あたしの姿を見るなり、怯えて逃げようとした。 つまり、自分と相手の力量を見定められるってことだ。 そういうヤツが、人間らしい心を持って成長すれば、十分戦力になると思うぜ」




「そいつは、敵じゃないか!!」




セイが、姉たちの前に飛び出して、怒りを含んだ大声を張り上げた。


アリアも、足を止めて振り返る。




「そいつは、僕たちの母上を殺し、村の皆を傷つけた、オークたちと同族じゃないか! そんなやつを仲間にする必要なんかない! 今すぐにでも、お前がしたみたいに、殺してしまえばいいんだ!!」



まだ痣の残った身体で、晴れ渡る空に響くような声で、セイは、アリアとその腕に抱かれた子オークを指差し、怒気と殺意を込めて、非難するような言葉を綴った。



リンもショーンディも村人たちも、皆足を止め、固唾を飲んで見守る。





アリアはーーーーーーーーーーーーーーー







はーーーーーーーーー・・・、と、ため息をし、失望したような顔をして、セイを見つめた。







「セイ。 そういう事言うんなら、お前も、あのオーク共と同じだな。」




その言葉を聞いたセイは、当然怒り上がってアリアに





「・・・なんだと・・・っ!?  ふざけるな! 僕は、あんな矮小で卑怯なオーク共とは違う!」


「ハッ!嘘をつけ! なら、何故お前は、最初に、こんなお前と変わらないような子供を攻撃した?     

 奇襲で優位に立てる位置にいながら、何故、てめーの村の大人数人でも抑えられないようなでかいオークじゃなく、お前に簡単に捕まるようなガキのオークを狙った?」


「それは・・・っ、実力が、僕にお前くらいの実力があれば、成体のオークを狙ったさ!

その子供のオークが、僕の腕前に合った相手だったから!」


「言い訳だな。 あたしが答えを言ってやるーーーーーーー






ーーーーーお前も、あのオーク共と同じで、弱い敵としか戦えない臆病な卑怯者だからだ」




「・・・・・・・っっっぐううううううううっ!!!」




言い返せないのか、自分がアリアに言われた通りの心の持ち主なのが解ってしまったそれに納得してしまったのか、セイは、悔しそうに呻き声をあげた。



「・・・セイのことはともかく、そいつを村に連れて帰るのは俺も反対だ。 そいつの仲間はみんなあんたが殺しちまったんだろ? だったらそいつも、オークに襲われた俺たちみたいに、俺たちを憎んでいるはずだ。 それならあの時、他の親兄弟たちと一緒に屠ってやったほうがよかったんじゃないか?」


そう言って異議を唱えたのは、村の若い男衆の一人「ワシントン」だ。

普段から文句や弱音の多い彼だが、今回の件に関しては、他の村人たちも同意していた。



「なら聞くが、ワシントン。 ーーーーーリン、この島にお前ら以外の人間の集落はあるか?」


「あ、はい。 オークの襲撃で今は疎遠になっておりますが・・・」


「そうか。 ワシントン、もしお前が、その他の村のヤツと喧嘩になったとする。 喧嘩の原因は食い物の取り合いだとしよう。 お前とそいつは口喧嘩から殴り合いを始めて、苦戦ののち、お前が相手をぶちのめした。 そいつは、鼻から血を流して、痛みに呻いてお前に許しを乞いている。


 お前は、そいつの心臓を槍で貫いて殺すか? そして、そいつの親と恋人と子供を殺して、家に火を放つか?」


「そ、そんなバカな。 たかが食べ物の恨みでそこまでは・・・」


「だろ? それと同じだ。 種族間の殺し合いも、1対1の喧嘩と変わらねぇんだよ。

 殺し合いって言うのは、戦争って言うのは、二つのうちどっちが強者で弱者なのかを決める戦いだ。 その戦いが終わったとき、負けた弱者を許すことが出来るのは勝った強者にしか出来ねぇ。





「もし、コイツがあたしたちを仲間と認めず、敵になったその時はーーーーー





         あ  た  し  が  殺  る  。

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