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先住民とは普通言葉通じねぇけど、この島は・・・

「ところで、疑問なんだけどよぉ。


 なんでお前達、あたしと同じ『大陸語』で話せてるんだ?」



ある日の夕刻、アリアが遠泳素潜り漁で捕まえた、巨大なマグロを、村人たちが捌いている横で、アリアは、思っていた疑問を口にした。


それは、この島の人間たちが使っている『言語』についてだ。


「大陸語」は、バイス王国のみならず、他の大陸や国でも常用的に使われている共通言語だ。

発祥元は不明だが、大陸同士をつなぐ大橋が出来る以前から、海洋貿易や移民・労働者の行き来により、複数の大陸の民に伝わり広まったという。


ただし、大陸を治めている国家に、領土と認定されている所での話に限るが。


この世界の大陸は、群島のようにある程度まとまって存在しているが、それらは決まった方角へ連なるように分布しておりーーーバイス王国から見て、西と、特に北側に多く分布しているーーー、それ以外の方向の海洋には、船で行き来するにも不便な小さな島がポツポツと存在するのみで、確認出来たとしても、人が住んでいるのか怪しい島には、国的な利益を望めないため、つまり、大陸側の貿易商や出稼ぎ労働者が立ち寄ることもないので、その島々に大陸語が流通することはないのである。


しかし、この島の、セインの民たちは、アリアと最初に出会ったときから、大陸語で話していた。


知性は悪い方だと自覚しているアリアでも、人の往来がなければ、離れ小島でも、言葉が移ったり教わることはないのは理解していた。


故に、共通言語を流暢に話す島の先住民に、疑問を持ったのである。


その疑問に、族長が答える。


「ああ。 はい、我らの本来の言葉は・・・・・・

|ウガラカ ホンガ オンドド ギーラ(このように はなす のですが)」

「うん、島の人間の言葉って、あたしのイメージだとそんな感じだよな」

「はい、数年前までは、皆そのように話しておりました。

 ですが、ある時、まるで神が与えたもうたように、数冊の教典が・・・」

「それ、また胡散臭い話になる?」



そして、アリアの目の前に、何冊かの本が、山のように置かれた。


それらの本は、当然、紙で出来ていたが、その材質は、明らかに島の文明レベルから飛び出していた。


それもそのはず、それらの本は、アリアが魔法学園で教材として使われている「教科書」そのものであったのだから。


「なんでこんなのが、島にあるんだ? 座礁した商船から流れついたか・・・にしては薄汚れてるだけで中身も普通に読めるよな」

「数月前のある時、村の者が浜辺にこの本が落ちているのを拾ってきました。

そこには、我らが用いるものとは異なる言葉や文字が記されており、最初はほとんどの者は見向きもしませんでしたが、『この言語を用いる者が、我らの救世主として舞い降りる』という、司祭殿の預言を受け、そして本日へと至るわけです」


またお前の仕業かい・・・、とアリアは、真顔で絵日記を付けている司祭を、呆れ顔で見る。


そう思いながらも、アリアは視線を本に戻し、ページをパラパラと捲った。

その手触りも描かれている内容も、アリアの記憶の中にある教科書とほぼ同じであった。

その時、ページが捲り終わり、教科書が裏表紙にベロンと閉じた。


だが、その裏表紙に書かれた文字には、以外なものが書かれていた。


裏表紙には、教科書の持ち主であろう人物の名が記されていた。



その人物の名は・・・・・・・・・
















                  『マリア・クランガル』




予想だにしなかった人物の名前に、アリアは思わずギョッとした。

自分の妹の名前が、なぜこんなところに・・・



だが、それと同時に、アリアは、一つの答えに辿り着こうとしていた。




「なあ、これ、同じやつがもう何冊かあるんじゃないか?」

「おお!? 存じ上げておいでなのですか!? は、はい、ございます。 ただいまお持ちいたします・・・」



そして、目の前に置かれた三冊の同じ種類の教科書の裏表紙の名前を見ると、アリアの疑念は確信に変わった。



裏表紙に書かれた名前・・・・・・・・・









『マーティン・ウェストン・バイス』

『ウェイ・クランガル』

『ランス・ヴァンス』




どいつもこいつもクソッタレの名前が出てきたことにより、数か月前の出来事がアリアの脳裏をよぎっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー 数ヶ月前

バイス王国立魔法学園



「あ、あの・・・アリアさん? ちょっと、よろしいですか?」

「あ? んだよ先公」


授業は終わり、生徒たちが各々活動に移った放課後。

アリアは、廊下で学園の教師に呼び止められた。


声をかけた教師は、恐怖心からガタガタと震えていた。 無理もない。


なぜなら目の前の侯爵令嬢は、この学園を力と恐怖で支配していると言われている者だからだ。


彼女と他の生徒が衝突すれば、間違いなく彼女の手で相手が文字通り握り潰されることになる。

暴走する荷馬車に子供が無慈悲に轢かれること、怒り狂った獅子に仔馬が無残に喰い散らかされることと同じである。

父親を侮辱されれば舌を下顎ごともがれ、売女と言われれば性器をもぎ、学校周辺に不審者が現れれば翌日校門前に晒し首が並び、一般市民に非行を働く生徒がいればどこまでも追い詰めて必ず殺す。

つい先日も、教職員室の窓から男子生徒が投げ入れられ、追撃で身体に3、4箇所の穴を素手で空けトドメに頭を職員室のドアで挟んで粉砕する惨殺事件が起きている ---それが起きた原因は、殺された男子生徒が、新任の女教師にセクハラしたためである、とは、アリアの主張だがーーー。


一応補足すると、殺された者は、アリアの父親、クランガル当主に派遣された王宮治療士の手で蘇生・回復しているが、相手がアリアと、遠目でも、出会っただけで、殺されたときのトラウマが再発するのか、治癒されたはずの傷口が再び開口したり、心停止を起こしたりしているらしい。


そんなことがほぼ毎日起きていれば、その刃が自分たちにも振るわれるのでは?、と、教師たちが恐怖するのも当然であり、そのため、彼女と話す際の言葉は、とても慎重に、遠回りな言葉になるので、結局、アリアをイラつかせることになることが多い。


「あなたは、その、我々の基準からすれば、模範的とは言い難いが・・・あ、いえ! ですが、むしろ、治安風紀は非常に良くなっており、それが他の生徒の指標となっていて、つまり、その・・・」


「だからなんだってんだよ? あたしに言いたいことあんならハッキリ言えや」


「ひぃっ!! で、ですから、マーティン王子陛下が、その、アリアさんに、教科書を奪られ、捨てられたと、そ、そのような話をぉ、聞いたような気が・・・」

「おい、先公。 

あ た し が そ ん な し ょ う も ね ぇ こ と す る ヤ ツ に 見 え る か ?」

「いいいいいい、いえいえいえ! とんでもございません! もちろん、否定いたします、私たちの見解でも!」


アリアに睨まれ、教師は、酷く怯えて否定しながら距離を取った。


と、そこへ・・・


「アリア! 貴様、ここでなにをしている!?」


敵意全開で怒鳴ったのは、マーティンとその取り巻き・・・いや、もうこの時点で、『マリアの』取り巻きの一団だ。

しかめっ面の侯爵令嬢と小動物のように震える教員を見た一同は、誤解と妄想だけでアリアを糾弾し始める。


「姉上、まさかそこの教職員に手を上げるつもりではありませんね?」

「まったくお前は! どこまで性根が腐ってやがるんだ!」

「お姉さま! そんな恐ろしいことはお止めください!」


「しねぇよ、この先公は何もやっちゃいねぇのに。 あたしを野蛮人だと思ってんのか?

 まったくお前ら、あたしに嫌がらせするのに、毎回周りくどい事してんなあ」


アリアは、このアホの一団のやることには怒りを通り越して心底呆れ果ててていた。

この、魔法学園入学初日から続いているアリアへの嫌がらせ行為は、内容の稚拙さとアリアの戦闘能力とキレやすさを考慮しない無計画さで、いつも失敗していた。

『家ではいつも、二人きりの状況でいじめられている』というマリアの嘘を鵜呑みにした、また幼少の頃からアリアに力でねじ伏せられた恨みのある幼馴染たちによって、かの『悪役令嬢』を見返すまたは地位を失墜させるために様々な方法で仕組まれている。

ある時はクラスメイトを用いり、ある時は被害を捏造し冤罪を擦り付ける。

それらの策が成功した試しは、前述の理由で全くなく、アリアも、最近は、この国の第一王子で、父親の顔を立てるために婚約している相手(あとその友達の聖騎士団団長の息子と自分の身内の弟妹)であることをを考慮しているとはいえ死亡一歩手前まで追いつめても、翌日またやってくるアホ王子御一行に愛想を尽かし、相手せずガン無視決め込むことが多くなっている。


「証拠は挙がっているぞ、アリア。 間者を用いて我らの教科書を盗みあまつさえ破棄するとは・・・、全く貴様という女は、醜いにもほどがあるぞ。 いくら私の婚約者とはいえ、看過出来ることではない、この件は父上に報告し

おおーーーーーーーーーーーーーい!!どこへ行く!? 話を聞けぇ!」


「うっせぇ、帰るんだよ。 てめぇらみてーなタコ相手にしてたら日が暮れちまうぜ」

アリアは、第一王子の話をまるで無視して帰宅体勢を執っている。

その姿勢は、王子の存在全てを自分の全感覚から抹消する構えだ。


「おのれ貴様ァ! 一侯爵家の令嬢風情が、私を愚弄するのかッ!」

「ままま、マーティン王子陛下! 貴方様とご学友たちの紛失した学用品は、こちらで補填させていただきます。 ですので、もう、この辺りで・・・」


神聖な学び舎で血を見たくないのか、もしくはこの校舎を先日倒壊した第二校舎のように破壊されたくないのか、教員が仲裁を図る。

だが、マーティンはそんな教員にも睨みをきかせて怒鳴る。


「貴様はそれで良いのか! あの女はこの学園、いや、この国を暴力で支配せんと企む悪女だぞ!

その悪女に屈して、言いなりの傀儡に成り下がって、それが貴様の望みか!」

「し、し、し、しかし、アリア嬢には本学園の治安活動に多大な貢献をなされてありまして、そのー・・・」

「ふっ、相変わらず自分の野望を他人に代弁させたがる男だな」


自分の主張を鼻で笑うアリアにマーティンは向き直って言葉を続ける。


「とにかく、この件は父上に報告してやる! そうすれば、父上から追って貴様に処罰が決まるだろう。 貴様の父親にも、今回のことを伝えてやるからな! 覚悟しておけ!」


「お父様や王様が、てめぇらのガキレベルの嘘を鵜呑みにするわけねぇだろ」


「ああ、そうだったなぁ。 貴様の父親は私の父上を洗脳し国家乗っ取りを策略しておるのだからなあ。 父娘そろって薄汚いクズが、いずれ我が国から追放し(ドンッ





「て め ぇ 、 も う 一 度 お 父 様 を 侮 辱 し て み ろ ! !」



マーティンの攻撃の矛先がアリアの父親に変わった瞬間、王子の顔面はアリアの手で壁ドンされてめり込んだ。



そして、魔法学園校内に、半年くらい消えない血の痕が増えた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




(まさか、こんなところで約にたつなんてな。 だが、クソ王子、あたしはお前なんかに感謝はしねぇぞ)

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