とりあえず、クソ王子ぶん殴る
『○○した件』というタイトル名が、嫌煙されそうなのは、思っていますが、これしかタイトルが思い浮かびませんでした(笑)
あと、悪役令嬢モノ初投稿です。
・・・現実ではないどこかの異世界
恋愛小説のような、きらびやかな中世ファンタジーな世界にて・・・・・・
「アリア! 貴様との婚約を破棄させてもらう!」
大きな城の巨大なホール。
国中の王族貴族が集まったパーティー会場で、この国ーーー『バイス王国』の第一王子「マーティン」の張り上げた声が響き渡り、参加者の話し声で賑わっていた会場は、しん、と静まり返った。
階段の中段に立ち、傍らに、美しい容姿の少女を自身に寄せるように抱きかかえ、端正な顔立ちで憎悪全開で睨み付ける先は、ホールの中央。
不自然な位にがらんと空いた空間にポツンと一人立っている、美しい令嬢ーーー王子の抱きかかえている少女は、全体的に幼さが目立ち可愛いらしさのある美しさだが、この令嬢は豊満な胸とヒップのラインが妖艶な美しさを出していたーーー・・・この令嬢こそ件の「アリア」・・・「アリア・クランガル」侯爵令嬢である。
「あ? なんでだよ?」
・・・美しい容姿からは、想像も出来ないくらい粗い口調で喋ったのは、紛れもなくアリア本人である。 アリアの口調に特に触れることもせずーーー普段からこの口調のためーーーマーティン王子は尊大な態度を崩さず口を開く。
「ふん! 白々しいことを・・・ お前のしでかした悪事は、とうの昔に暴かれているのだぞ!」
「だからなんのことだよ?」
「とぼけるな! お前は姉でありながら、自分の妹の「マリア」に手を挙げただろ!」
そう言って、王子の傍らで怯えるように姉を見つめる、アリアの妹「マリア・クランガル」の前に庇うように立ち塞がったのは、バイス王国騎士団長の息子「ランス」である。
「ランス・・・お前は相変わらず頭空っぽそうだな。 自分の妹に手を挙げて何が悪いんだよ?」
「お前は、学園でマリアに、陰湿な嫌がらせをしただろう!? 石を投げつけるだの、池に突き落とすだの、挙句の果てに階段から突き落としてケガさせたじゃないか!」
「大砲の砲弾に火をつけて投げつける、水深200mまで強制連行して腹パン、階段の下で待ち受けてバックドロップ、の、間違いじゃないのか?」
「い、いや・・・・・・と、とにかくそれくらいのことはしただろう!?」
自分の言ったーーー正確にはマリアから聞いたーーー内容の、さらに上の凶行を悪びれもなく言い放つ女に、事態を見守る観衆と共にドン引きしたランスを視界から追い出し、アリアは妹に視線を向ける。
「マリア、あたしがそんな回りくどいクソみてぇなことする女に、
見 え て い る の か ? あぁ?」
視線だけで殺しにかかっているような姉の形相に、恐怖したマリアは、王子の背中に隠れてブルブル震えた。
「姉上、失礼ですが、こちらにはそれを証明する証拠と目撃者があります」
そんなマリアを庇うように現れたのは、アリアの弟であり、マリアの兄である「ウェイ」であった。
アリアは、鬱陶しいものを見る目で弟を見る。
「すっこんでろ、ウェイ。 てめーの出る幕じゃねぇ」
「しかし、姉上・・・」
「すっこんでろっつったろうが! その眼鏡割って眼球に突っ込むぞ!」
「お、お姉さま! やめてください! わたしの大切な兄上なのですよ!?」
王子の背に隠れていた妹が、兄の危機にーーー姉が発言したことは本当にやらかすことを知っているためーーー思わず声をあげる。
「てめぇにとってはな! だがあたしにとっては、あたしが殺そうとした山賊の命助けようとして後ろから刺されて取り逃がした、くそったれのバカ野郎だ!」
「もうよい! 黙らんか!」
一方的な結果に終わる兄弟げんかが勃発する前に、マーティンが場を静かにさせた。
「このように野蛮で醜悪な性根の女が、将来の我が国の女王などと、片腹痛いわ!
さっき言ったように、貴様との婚約は破棄させてもらう!
わたしは貴様の妹、マリアと婚約し、この国の女王として迎える!」
「は? なんて?」
突然のカミングアウトにアリアは頭に疑問符を浮かべた。
「当然だろう、貴様のような悪魔とは違い、マリアは天使のように慈悲深く愛情に溢れている。
なにより、わたしはマリアを愛している・・・」
「衛兵さーん! ここにロリコンの変態がいまーす!」
「貴様ふざけたことを抜かすな!」
「ざけてんのはてめぇだろーが! マリアは13になったばかりだぞ!」
「はっ! それがどうした? 我が国の歴史には、過去、九つの若さで女王になった者もいる」
「会場のみなさーん! ここにいる第一王子はいにしえのロリコンの血を引いてまーす! 15歳未満のお子さんがいる家庭は、すぐに国外逃亡してくださーい!」
「ふっ、貴様に他人の心配をする余裕があるのか?
貴様の未来の女王への非道、捨て置くわけにはいかん。
ここで捕らえ、処刑してもよいが、わたしはそこまで鬼ではない。
貴様が犯した罪をいまここで認め、マリアに謝罪するならば、命だけは助けてやろう・・・
・・・さあ、言え! 罪を認め、未来の王妃に謝罪しろ!」
「お姉さま!」
「アリア、罪を認めろ!」
「姉上! お覚悟を!」
「普通にやだよ?」
「「「「「な、なにぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?」」」」」
けろっとした顔で悪びれもなく言い放ったアリアに、思わずその場にいた全員が絶叫した。
「あ、でも妹引き取ってくれるなら嬉しいな。 男に色目使う妹には正直キモイの感情しかないし」
「ききききき、きさま、自分がなにを言っているか、解っているのかぁ!?」
「んー、強いて言うなら、妹への身売り許可証?」
「あ、姉上!! マリアに向かってなんてこと言うんですか!?」
「え、だってこいつ、お前や王子誘惑するために、股開いたんじゃないの?」
「するわけないでしょう!? ほんとになに言ってんだ姉上おいコラ!」
「それはさておき、あたしが学校で妹ボコボコにしたのは事実だし、かといってそれを罪だと思ってないし、妹に謝りたくないし」
「きさまあああああああああああああああああああああ!!!!」
「お? ここであたしを殺す気か、王子サマ?
だがはっきり言って、てめぇらみてーな戦うことも戦も知らねぇ王族崩れのアホ共にやられるほどあたしは弱くねぇからな。
ここで全戦力投入して殺りあってもいいが、妹の嫁ぐ城血まみれにして、そこにいるキモイ妹、略してキモウトと、バカ弟、略してバカウトに一生消えねぇトラウマ植え付けて良いならそれでいいがな?
まあ、あたしを捕らえるのは諦めて、国外追放にした方が良いんじゃねぇか?
あたしもこんな国未練ねぇからさっさと行っちまってもいいけどよ。
その前に・・・
一つ確認してぇことがあんだよ」
飄々とした態度から一転、人殺す時のドスの効いた声に変わったアリアは、殺意を隠さず、ずしり、ずしり、と、マーティンにゆっくり近づいて行く。
「あたしと王子が結婚すんのは、てめぇの親父ーーー現国王ーーーと、あたしのお父様の間で決められたことだったなぁ・・・?」
あまりの異質な空気に兵士たちは王子を守るように防御陣形を執った。
「女には、貴族らしさと女らしさを求めるあのお父様が、妹ではなくあたしにだぞ?」
アリアは、陣形の中心にいる二人の兵士にそれぞれ手を置くと・・・
カーテンを勢い良く開けるかのように兵士たちを吹き飛ばした!
「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」
ワイルドボアの突進をも受け止めるという重装甲の鎧と盾を装備した兵士たちが、紙吹雪のように飛ばされていく!
ある者は、パーティーテーブルに突っ込み、料理をぶちまけ参加者が悲鳴を上げ、
ある者は、壁にめり込み、すぐ横にいた召使いを戦慄させ、
ある者は、ワインセラーから運び出した巨大なワイン樽に衝突し、ワインをまるで血の雨のように降らせ、
ある者は、階段中段に立つ王子のすぐ横に転がってきた。
「女らしいことは一つもせず、戦場で敵を殺して回って、苗字を「ブラッドレイ」に変えるとか目の前で言う、このあたしにだぞ?」
なおも接近してくるアリアに、王子とマリアを守るため前に出たランス。
だが、頬を潰すように顔をつかまれ・・・
そのまま後方に投げ飛ばされた!
それが一瞬の事に起き、ランスは受け身も取れず、カエルのように床にベシャッと落ちた。
「聞いた話によれば、あまりに女らしくないあたしの将来を不安視したお父様と、将来の国の防衛能力を不安視したお前の親父の利害が一致して出来た縁談だそうじゃねぇか?」
幼少の頃から姉に殴られ、そのトラウマが蘇ったウェイは、呻くような悲鳴を上げて、姉の『攻撃目標』から離れて行く。
それを見たマリアも、兄に続いて、マーティンから離れて行く・・・
アリアが足を止める・・・
「国外追放の前に、お前に言いたいことがある」
「な・・・なんだ?」
アリアが、マーティンにそう告げると、マーティンの返事が聞こえたすぐ直後!
アリアは、大股でも3、4歩ある距離を一気に詰め、マーティンの後頭部に手を回すと・・・
「あたしのお父様の顔にぃッ! 泥塗る気かこのクソ王子がああああああああああああああ!!!」
マーティンの顔面を高速で階段の手すりに連続強打させ始めたぁッ!!!!
鈍い打撃音が、ホールに響き渡る・・・!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
誰かその女を止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「オーガの軍勢をたった一人で壊滅させた侯爵令嬢を、止めれる者などこの国にはおりません!!」